認知症で寝てばかりに——終末期のサイン?と思ったとき、家で確かめたいこと
九月に入りました。朝の空気がすっと涼しくなって、訪問先でも「窓を開けているとさすがに寒いね」という声を聞くようになりました。夏の疲れがあとから出てくるのも、ちょうどこのころです。
先日うかがったお宅で、息子さんからこう相談されました。「このごろ、一日じゅう寝ているんです。ごはんのときに声をかけても、少し目を開けてまた眠ってしまって。これはもう、そういう時期が近いということなんでしょうか」。言葉を選びながら、けれど確かめずにはいられない、というご様子でした。
眠っている時間が増える——ご家族にとって、これはとても不安な変化です。そして正直に申し上げると、この変化ひとつで「終末期です」とも「心配いりません」とも言えません。眠る時間が増える背景には、手を打てば戻るものと、経過としてゆっくり進んでいくものの両方があるからです。今日はその見分け方と、家でできることを書いてみます。
眠る時間が増えたとき、原因はひとつとはかぎりません
認知症のある方が日中も眠るようになる。その理由として、ご家族はまず「病気が進んだからだ」と考えます。もちろんそれもあります。ただ実際に診察にうかがうと、進行そのものよりも、別のことが重なって眠らせている場面のほうが多いと感じます。
体調をくずしている、水分が足りていない、お薬が効きすぎている、夜に眠れていない分を昼に取り返している。こうした要因はいくつも同時に起きます。そして厄介なことに、そのどれもが「なんとなく元気がない、よく寝ている」という同じ見た目になります。だからこそ、見た目だけで結論を出さずに、ひとつずつ確かめていく必要があります。
まず確かめるのは、手を打てば戻る原因のほうです
私たちが最初に考えるのは、治療や調整で改善しうる原因です。よく見つかるのは次のようなものです。
脱水——高齢の方はのどの渇きを感じにくく、認知症があると自分から飲む行為そのものが減ります。夏を越えたあとのこの時期は、暑さのあいだに減った水分がそのまま戻っていない方がいらっしゃいます。感染症——高齢の方の肺炎や尿路感染は、熱や咳がはっきり出ないまま「なんとなく寝てばかり」だけが症状のこともあります。便秘——おなかが張って食欲が落ち、だるさから寝てしまう。これも見落とされやすい原因です。
ほかにも、血糖の下がりすぎ、貧血、甲状腺のはたらきの低下、電解質の乱れなど、血液検査で分かるものがあります。訪問診療では採血や簡単な検査も家の中でできますので、「調べてみましょうか」とその場でお話しすることが多い部分です。
それから、数日のうちに急に眠りこむようになった、時間帯によって様子が大きく揺れる、起きているときにつじつまの合わないことを言う——このような出方をするときは、せん妄を考えます。せん妄は原因に手を打てば戻る可能性のある状態です。認知症が進んだのだと受け止めて様子を見るより先に、ご連絡いただきたい変化です。
見落とされやすいのが、お薬の影響です
眠気の原因として、私たちがかなり早い段階で確認するのがお薬です。眠るためのお薬、気持ちを落ち着けるお薬、夜間の興奮に対して出されたお薬、かゆみやアレルギーのお薬、痛み止め、吐き気止め。それぞれは必要があって始まったものですが、年齢とともに体の中での薬の抜け方は変わります。同じ量を同じように飲んでいても、以前より効きすぎるようになることがあります。
種類が増えているときはなおさらです。夜のためのお薬が翌日の昼まで残り、昼に眠るので夜また眠れず、そこでお薬が足される——という循環に入っていることもあります。
とくに注意しているのが、レビー小体型認知症の方です。このタイプはお薬に敏感で、ごく一般的な量でも日中ずっと眠ってしまう、体がこわばる、といった反応が出ることがあります。タイプごとの違いについては認知症の種類と対応をまとめた記事にも書きました。
ただし、ご家族の判断でお薬を中止するのは避けてください。急にやめることで具合が悪くなるお薬もあります。「このごろ眠ってばかりで」と伝えていただければ、必要性と量を診察のうえで見直します。減らせるものがあれば減らし、変えられるものがあれば変える。ここは医師の仕事です。
認知症の経過として、眠りが長くなっていくとき
一方で、調べられるものを調べ、お薬も整えたうえで、それでも眠っている時間が少しずつ長くなっていくことがあります。認知症が進むと、目を覚まして起きている状態を保つ力そのものが下がっていきます。食事の途中でうとうとする、日中に起きている時間が短くなる、といった形であらわれます。
このときの変化は、多くの場合ゆっくりです。先週まで一日じゅう起きていた方が今日から寝たきりになる、という進み方はしません。数日で大きく変わったのなら別の原因を、数か月かけて少しずつ変わってきたのなら経過を——まずはこの時間の物差しで考えます。
そして、経過としての眠りだと分かったとしても、そこで打つ手がなくなるわけではありません。起きている時間をどう過ごしていただくか、食事や水分をどのタイミングで無理なくとるか、体の負担をどう減らすか。考えることはむしろ具体的になっていきます。
「終末期のサインですか」と聞かれたとき、私が見ているところ
この問いに、眠っている時間の長さだけでお答えすることはできません。よく眠る日が続いても、そのあと安定して過ごされる方はいらっしゃいますし、逆に眠りの変化が軽くても他の点で心配な方もいらっしゃいます。医学的にも、ひとつの症状から先の見通しを言い当てることはできません。ですから当院では、「これがあれば余命はどれくらい」というお話はいたしません。
そのうえで、診察のときに私が合わせて見ているのは次のような点です。食事と水分がどれくらい入っているか。体重が続けて落ちてきていないか。飲み込みの力が落ちて、むせることが増えていないか。肺炎などをくり返していないか。起きているときに、こちらの声にどのくらい反応が返ってくるか。眠りの変化と、こうした点の積み重ねを合わせて、はじめて今どのあたりにいるのかをご家族とお話しできるようになります。
ご家族が知りたいのは医学用語ではなく、「今、何をしておけばいいのか」だと思っています。ですから面談では、時期の話だけで終わらせず、これからの数週間・数か月をどう過ごすかまで一緒に考えるようにしています。
ご家族に記録していただけると、判断が早くなります
訪問診療でうかがえるのは、月に一度か二度の、しかも数十分です。その短い時間だけでは、眠っている時間が本当に増えているのかどうかが分かりません。そこでお願いしているのが、簡単な記録です。
ノートの端にでも、その日おおよそ何時間眠っていたか、食事が何割くらい入ったか、水分がコップで何杯ほどだったか、熱を測ったなら何度だったか。これだけあれば十分です。きれいにつける必要はありません。むしろ「先週は昼にも起きていたのに、今週は起きていない」という比較ができることのほうが大事です。
この記録は、訪問看護やケアマネージャーの皆様との情報共有にもそのまま使えます。ご家族の実感を、数字と日付のある形にしておいていただけると、私たちの判断はずいぶん早くなります。
眠っている時間が増えたときの、家でできること
まず、無理に揺り起こさないでください。声をかけても反応が薄いときに何度も起こそうとすると、ご本人が驚いたり、いやな記憶だけが残ったりします。カーテンを開けて日の光を入れる、名前を呼んでしばらく待つ。そのくらいの起こし方で反応するタイミングを探すほうが、うまくいきます。
食事と水分は、目が覚めていて反応がよい時間帯に合わせるのが基本です。三食を決まった時刻にそろえることより、しっかり起きているときに口にしていただくことのほうを優先してかまいません。眠そうなまま口に運ぶと、むせや誤嚥のもとになります。体を起こし、あごを引いた姿勢をとってから、というひと手間も大切です。
眠っている時間が長くなると、口の中が乾いて汚れやすくなります。歯みがきが難しい場合でも、スポンジブラシで口の中を湿らせて拭くだけで、肺炎の予防と本人の快適さの両方につながります。同じ姿勢が続くときは、数時間おきに体の向きを変え、かかとやお尻の皮膚が赤くなっていないかを見ていただけると助かります。
そして、日中に眠ることを責めないでいただきたいと思います。眠っているあいだも、そばで手を握ったり、いつもの音楽を流したりする時間は、ご本人にちゃんと届いています。「起こさなければ」と気を張り続けるより、そういう過ごし方に切り替えるほうが、ご家族の消耗も少なくてすみます。
この変化は、様子を見ずに連絡してください
ゆっくりした変化なら次の訪問でお話しいただければ十分ですが、次のようなときはその日のうちにご連絡ください。呼びかけてもまったく反応が返ってこない。ゆすっても目を開けない。息が荒い、あるいは浅くて回数が少ない。熱が出ている。けいれんがあった。水分がまる一日ほとんど入っていない。半日から数日のうちに急に眠りこむようになった。
当院では急変時の24時間対応を行っています。夜間や休日に「これは連絡していいことなのか」と迷われることもあると思いますが、迷った時点で電話をいただいてかまいません。何でもなかったと分かることにも意味があります。
眠る時間が増えてきたら、話しておきたいこと
眠っている時間が長くなってくると、ご本人と言葉を交わせる時間は少しずつ短くなります。だからこそ、この時期はご家族で話をしておく機会でもあります。食べられなくなってきたときにどうするか、具合が悪くなったときに入院するのか家で診るのか、どこで過ごしていただきたいか。
正解を決める作業ではありません。「本人だったらどう言うだろう」を、家族のあいだで共有しておくだけでも、いざというときの迷いはずいぶん軽くなります。私たちも面談の場で一緒に考えますので、遠慮なく持ち出してください。
札幌市内を中心に訪問診療を行っている当院にも、「寝てばかりになってしまって」というご相談をいただきます。その眠りの意味は、診てみないと分かりません。手を打てば戻るものかもしれませんし、経過として受け止めていく時期に入っているのかもしれません。どちらであっても、ご家族だけで抱えて判断するテーマではないと思っています。秋のはじめのこの時期に、一度ご相談いただけたらと思います。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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