高齢者の脱水症とは?——気づきにくいサインと、家でできる水分・塩分の摂り方
お盆に親戚が集まると、「あれ、おばあちゃんご飯減ってきたね」という一言から話が始まることがあります。数口だけ箸をつけて「もう食べられない」。そばに置かれたお茶は、朝からほとんど量が変わっていない——訪問先で、実はよく見かける光景です。
脱水症というと、炎天下や運動中に起こるものというイメージが強いかもしれません。ですが高齢の方の脱水は、暑さだけでなく、食欲の低下や下痢、発熱、日頃のお薬の影響などが重なって、季節を問わず静かに進みます。今日は脱水そのものに焦点をあてて、気づきにくいサインと、家でできる工夫、そして訪問診療がどこから関われるかを整理してみます。
なぜ高齢者は脱水に気づきにくいのか
年齢を重ねると、体の中の水分量そのものが若い頃より少なくなります。筋肉には水分がたくさん含まれているので、筋肉量が落ちるほど、体が蓄えられる水分の余裕も小さくなるのです。そこに、のどの渇きを感じるセンサーの働きが鈍くなることが重なります。本人は「渇いていない」と思っているだけで、体の中ではすでに水分が不足していることが少なくありません。これが高齢者の脱水のいちばんの厄介なところです。
もうひとつ見落とされがちなのが、食事からとれる水分です。ご飯やお味噌汁、野菜には思っている以上に水分が含まれていて、食が細くなるとお茶やお水の量を変えていなくても、体に入る水分の総量は静かに減っていきます。脱水と食欲不振はセットで起きることが多い印象です。認知症のある方では、そもそも「喉が渇いた」と自分から伝えること自体が難しくなることもあります。
見た目で気づきたい、脱水のサイン
重い症状より先に、日常の小さな変化として現れます。訪問先でご家族から伺うのも、たいてい次のようなお話です。
- 口の中や唇が乾いている
- 手の甲の皮膚をつまむと、戻るのに時間がかかる
- 尿の回数が減った、色がいつもより濃い
- 立ち上がったときにふらつく、こむら返りが増えた
- 返事が遅い、日中ぼんやりしている時間が長い
この中で在宅ケアの現場で特に役立つのが、尿の色です。特別な道具がなくても、トイレの様子から今日の水分の足りぐあいをおおまかに見立てられます。
色が濃くなるほど、水分が足りていないサインです。もちろん一部のお薬やビタミン剤で色が変わることもあるので絶対的な目安ではありませんが、「いつもより濃い」「量が少ない」という変化に気づいたら、水分・塩分を見直すきっかけにしていただければと思います。なお、意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い、けいれんしている、水を飲ませようとしてもむせて飲めない——このような状態は、迷わず救急要請を検討してください。
暑さだけが原因ではありません
脱水というと夏を思い浮かべますが、実際の在宅の現場では一年を通して起こります。よくある引き金は次のようなものです。
- 利尿薬や一部の降圧薬——尿として出る水分・塩分が増える
- 下痢や嘔吐——胃腸炎に限らず、便秘薬の調整がうまくいかないときにも起こります
- 発熱——汗として失われる水分が普段より多くなる
- 食欲の低下そのもの——飲み込みにくさや義歯の不具合が背景にあることも
お薬の内容によって水分・塩分の失われ方が変わるので、「最近お薬が増えた・変わった」時期は、いつも以上に体調の変化に目を向けていただきたいところです。
家でできる、水分・塩分のとり方の工夫
水やお茶をとにかく勧める、というだけでは足りないことがあります。水分だけを大量にとると体の中の塩分が薄まり、かえってだるさや頭痛につながる場合があるためです。
- 食事量が落ちている日は、経口補水液やすまし汁など、水分と塩分を一緒にとれるものを選ぶ
- コップ一杯を一気にではなく、時間を決めて少しずつ。「何時に一口」と声かけの回数を家族の中で決めておくと続けやすくなります
- むせやすい方は、とろみをつけたりゼリー飲料に替えるなど、飲み込みやすい形にする
- 心不全や腎臓の病気で水分・塩分の制限がある方は、よかれと思った工夫が負担になることもあるため、量の目安を必ず主治医にご確認ください
訪問診療は、どこから関われるか
当院が定期的に伺っている方であれば、診察のたびに水分・食事の量、体重の動き、尿の様子、お薬の内容を一緒に確認します。気になる所見があれば、その場で採血を行い、電解質や腎機能の数値から脱水の程度を確かめることもできます。口から十分にとれない状態が続くようであれば、ご自宅や施設での点滴も選択肢のひとつです。利尿薬の量を、その時期の体調にあわせて見直すこともあります。
体重の変化も、実は分かりやすい手がかりです。数日で1〜2キロ体重が落ちているときは、体脂肪の変化というより水分が抜けているサインのことが多く、私たちも訪問のたびに体重計に乗っていただくようお願いしています。
札幌市中央区で、日々の小さな変化に気づくために
脱水は、どんな季節でも、どんなご家庭でも起こり得るものです。だからこそ「なんとなく元気がない」「ご飯を残すようになった」という段階で、気にかけていただきたいと思っています。当院は札幌市中央区を中心に訪問診療を行っており、こうした日々の小さな変化のご相談も、遠慮なくお寄せいただければと思います。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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