認知症の「種類」で対応はこう違う——アルツハイマー・レビー小体型・血管性・前頭側頭型

八月最後の日です。訪問の帰りに公園のわきを通ったら、木の葉のふちがもう少し色を変えていて、札幌の夏は本当に短いなと思いました。季節の変わり目は、ご家族から相談をいただくことが増える時期でもあります。

先日も、あるお宅で娘さんからこう聞かれました。「病院で認知症と言われたんですが、そのあと『レビー小体型』という名前も出てきて。何が違うんでしょうか」。専門の外来で診断名を告げられ、パンフレットを一枚渡されて帰ってきた——そのあと、家で何をどうすればいいのかが分からないまま数週間が過ぎている、という状況でした。

認知症という言葉はひとつでも、その中身はいくつかに分かれます。そして、分かれ方の意味は「病名を覚えること」ではなく、家での困りごとの出方が違うことにあります。今日はそこを整理してみます。

「認知症」は病名ではなく、状態をまとめた呼び名です

認知症とは、脳のはたらきが少しずつ低下して、それまでできていた暮らしに支障が出ている状態のことを指します。その状態を引き起こしている原因のほうに、それぞれ名前がついています。よく挙がるのが、アルツハイマー型・レビー小体型・血管性・前頭側頭型の四つです。

お腹が痛いといっても原因がいろいろあるのと同じで、「認知症」という一語では、その方が今どんなことに困っているのかまでは見えてきません。診断名は、そこを見分けるための手がかりです。ご家族に覚えていただきたいのは分類そのものではなく、タイプによって、家での接し方や気をつける点が変わるということのほうだと思っています。

アルツハイマー型——さっきのことが残りにくい

いちばん多いタイプです。特徴は、新しい出来事が記憶に残りにくくなること。朝ごはんの内容を忘れるのではなく、食べたこと自体が残らない、という出方をします。だから「さっき食べたでしょう」と伝えても、ご本人の中には食べた記憶がなく、責められたという感覚だけが残ります。

ゆるやかに進むことが多く、日付や曜日が分からなくなる、同じ話が繰り返される、しまい場所が分からず「盗られた」と感じる、といったことが起こります。財布や通帳をめぐるやりとりでご家族が疲れてしまうのも、このタイプで多い相談です。

家でできる工夫としては、大きめのカレンダーと時計を目に入る場所に置くこと、置き場所を毎回変えないこと、そして訂正よりも先に安心を渡すこと。「探しましょうか」と一緒に動くほうが、多くの場合おだやかに収まります。

レビー小体型——見えているものを、否定しないでください

このタイプでご家族がいちばん驚かれるのが、幻視です。「部屋の隅に子どもが座っている」「布団の上に虫がいる」——ご本人にとっては、本当にそう見えています。ここで「そんなものいないよ」と正面から否定すると、ご本人は自分の感覚を信じてもらえない不安のほうに追い込まれてしまいます。

私たちがお願いしているのは、まず「そう見えるんですね」と受け止めていただくことです。そのうえで、こわいものであれば場所を移る、電気をつける、カーテンの影や壁のしみなど見間違いのもとになりやすいものを片づける。それだけで落ち着くことがあります。

もうひとつ、このタイプで重要なのがお薬への敏感さです。ごく一般的な量の薬でも、体がこわばる、動きが鈍くなる、日中ずっと眠っている、といった反応が出ることがあります。とくに幻覚や興奮を抑える目的の薬で、こうした反応が強く出る方がいらっしゃいます。ですから、他の科でお薬が増えたときや、飲みはじめてから様子が変わったときは、早めに教えてください。増やすか減らすかは、その方の状態を診たうえでの判断になります。

調子に日ごとの波があること、動作がゆっくりになり歩幅が小さくなること、夜中に大きな声を出したり手足が動いたりすることも、このタイプでよく見られます。転びやすさにも直結しますので、家の中の段差や足元の明かりは早めに見直しておきたいところです。

血管性——できる日とできない日の差、そして再発を防ぐこと

脳の血管がつまったり切れたりしたことが背景にあるタイプです。特徴は、落ちる力と残る力がはっきり分かれること。計算や段取りは難しくなったのに、昔のことはよく覚えていて会話も成り立つ、というふうに、まだらな出方をします。

ご家族が戸惑いやすいのは、日によって、時間帯によって差があることです。今朝はできたのに午後はできない。それを見て「やる気の問題では」と受け取ってしまうと、お互いにつらくなります。波があること自体がこのタイプの特徴だと知っておくと、見え方が変わります。

感情の起伏が大きくなり、ささいなことで涙が出たり怒りが出たりすることもあります。ご本人にも制御しづらい部分があります。

そしてこのタイプでいちばん大事なのが、再発を防ぐことです。血圧、血糖、脂質、不整脈の管理、それに服薬を続けること。ここは訪問診療がお手伝いしやすい部分でもあります。毎回の訪問で血圧や体重を確認し、飲み残しが出ていないかを一緒に見ていく。地味な作業ですが、次の一回を減らすことにつながります。

前頭側頭型——「性格が変わった」と見えるとき

四つの中では数が少ないものの、ご家族の負担が大きくなりやすいタイプです。もの忘れよりも先に、行動や言葉のほうに変化が出ます。ものおじしなくなり、周りの目を気にせずふるまう。決まった時間に決まった道順で外へ出て、それが妨げられると強く抵抗する。甘いものばかり食べるようになる。言葉が出にくくなる。

比較的お若い時期、六十代前後で始まることもあり、「別人のようになった」とご家族が受け止めてしまうことがあります。しかし、これは人柄が変わったのではなく、脳の一部のはたらきの変化として起きていることです。ここを取り違えると、家族関係そのものが傷ついてしまいます。

対応としては、正面からやめさせようとするより、こだわりの流れをそのまま生かして安全な形に置きかえるほうがうまくいきます。散歩の道順を安全な経路に整える、決まった時間に決まったことをする習慣として組み込む、といった具合です。ご家族だけで抱えるにはしんどい場面が多いので、早い段階でケアマネージャーの皆様や地域包括支援センターに入っていただくことをおすすめしています。

きれいに分かれないことのほうが、実は多いのです

ここまで四つに分けて書いてきましたが、実際の診療では、教科書どおりにすっぱり分かれる方ばかりではありません。アルツハイマー型と血管性の要素をあわせ持っている方もいらっしゃいますし、経過を追ううちに見立てが変わっていくこともあります。

ですから、診断名がひとつに定まらないことを不安に思わなくて大丈夫です。名前がはっきりしないと何もできない、ということはありません。大切なのは、いま目の前で起きている困りごとに対して、どう手を打つかのほうです。

それから、急に別人のようになったときは、認知症の進行とは別のことが起きている可能性を先に考えます。数日のうちに一気に変わった、時間帯で大きく揺れる、という場合は、脱水や感染、お薬の影響で起こるせん妄のことがあります。こちらは原因に手を打てば戻る場合があるので、様子を見るより連絡をいただきたい変化です。

家での困りごとから、逆算して考える

ご家族との面談では、タイプの説明よりも先に、「いま何がいちばん大変ですか」とお聞きするようにしています。夜眠らないのか、食事が進まないのか、外に出て行ってしまうのか、お風呂を嫌がるのか。困りごとの中身が分かると、それが診断名とどうつながっているかも見えてきて、打てる手が具体的になります。

訪問診療では、その方の暮らしの場そのものを見せていただけます。玄関の段差、台所の様子、カレンダーの書き込み、冷蔵庫の中。外来の診察室では見えないところに、手がかりがたくさんあります。診断のあと、通院そのものが負担になってきた場合には、家に医療が入るという選択肢もあります。そのあたりは認知症の方の通院が難しくなったときの記事にも書きました。

札幌市内を中心に訪問診療を行っている当院にも、「診断はついたけれど、家でどうしたらいいか分からない」というご相談をいただきます。答えは、その方の暮らしごとに違います。八月の終わりのこの時期、これから寒くなって外出がさらに難しくなる前に、一度ご相談いただけたらと思います。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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