「薬が多すぎる」と感じたら——高齢者のポリファーマシーと、在宅での見直しの進め方
お盆で実家に帰った方が、台所の引き出しや仏壇の脇を開けて驚く。そんな話を、この時期はよく耳にします。ぱんぱんに膨らんだ薬袋がいくつも重なっていて、しかも薬局の名前が二つも三つも違う。飲み残しらしい包みが輪ゴムで束ねてある。お薬手帳は見当たらないか、あっても何冊かに分かれている。
「これ、全部飲んでるの」と聞くと、たいてい返ってくるのは「たぶん」とか「朝の分は飲んでると思う」といった、あいまいな返事です。責める気にもなれません。数が多ければ、管理しきれなくなるのは当たり前のことだからです。
今日は、この「薬が多すぎる気がする」という感覚について書いてみます。医学の世界ではポリファーマシー(多剤併用)と呼ばれていて、高齢の方の在宅医療では、避けて通れないテーマのひとつです。
ポリファーマシーとは——「何錠から」という線引きはありません
ポリファーマシーは、直訳すると「多くの薬」。ただし、単に薬の数が多いことを指す言葉ではありません。数が多いことによって副作用が出たり、飲み間違いが起きたり、本来は必要のない薬が続いていたりする状態を指します。
「六種類以上」という数字を目にすることがあり、そのあたりから転倒や副作用が増えるという報告はよく引用されます。ただ、これは目安にすぎません。八種類飲んでいても一つひとつに理由があり、きちんと効いていて、ご本人が困っていなければ、それは整った処方です。逆に三種類でも、そのうち一つがふらつきの原因になっているなら、見直す価値があります。
ですから私たちは、錠数を数えて多い少ないを言うより先に、「この薬は今も必要か」「これを飲んでいることで困っていないか」を一つずつ確かめていきます。
薬が増えるのは、誰のせいでもありません
ご家族から「なんでこんなに増えちゃったんでしょう」と、少し咎めるような調子で聞かれることがあります。けれど、ほとんどの場合、どこかで誰かが間違えたわけではないのです。
血圧のことは内科、膝の痛みは整形外科、眠れないと相談したら心療内科、胃がもたれると言えば胃薬が一つ。それぞれの場面で、それぞれの先生が、その時の困りごとに正しく応えてきた結果です。ただ、その全体を通して見る人がいないと、足し算だけが続いていきます。
もうひとつ、処方カスケードと呼ばれる連鎖もあります。ある薬の副作用で足がむくむ、そこにむくみの薬が足される。その薬でトイレが近くなり、頻尿の薬が加わる。一つひとつの判断は理にかなっているのに、出発点の副作用に気づかないまま薬だけが積み上がっていく。在宅で長く診ていると、この連鎖の途中経過に立ち会うことが少なくありません。
「ふらつく」「食欲がない」の背景に、薬があることも
高齢の方に多く飲まれている薬の中には、加齢とともに効きすぎるようになるものがあります。若い頃と同じ量でも、腎臓や肝臓の働きが変われば体に残りやすくなるからです。ご家族が「最近どうも元気がない」と感じている変化が、実は薬の影響だったということは、決して珍しくありません。
- ふらつき、足元のおぼつかなさ、転倒が増えた
- 日中もぼんやりしている、眠っている時間が長い
- 食欲が落ちた、口が渇く、便秘がひどくなった
- 物忘れが急に進んだように見える
- 立ち上がったときに、くらっとする
こうしたサインは「年のせい」で片づけられがちです。けれど、原因が薬にあるなら、調整することで戻る可能性があります。検査では異常が見つからないのに調子が優れない、というときの考え方は高齢者の不定愁訴についての記事にも書きました。薬の見直しは、そこで探る手がかりのひとつです。
それでも、自分の判断でやめないでください
ここが今日いちばんお伝えしたいところです。「多すぎるみたいだから、この薬はやめておこう」と、ご家庭で判断して中断してしまうのは、とても危ないことがあります。
血圧の薬を急にやめれば血圧が跳ね上がることがありますし、血をさらさらにする薬を自己判断で止めれば、脳梗塞や心筋梗塞のリスクにつながります。ステロイドやてんかんの薬、精神科のお薬も、急な中断で体調が大きく崩れることがあります。やめ方にも医学的な手順がある、と思っていただくのがいちばん近いかもしれません。
「余っているから、しばらく飲まなくていいか」も同じです。残薬が多いこと自体が、実は大事な情報です。飲みにくい、忘れてしまう、飲むと調子が悪い——何か理由があって残っているわけですから、それは隠さず主治医に見せていただきたいのです。叱られると思って、受診の前に薬を捨ててしまう方がいらっしゃるのですが、それはいちばんもったいない。
在宅での薬の見直しは、どう進むのか
当院で薬の整理をご相談いただいたときは、おおよそ次のような順序で進めています。ただし、どの薬をどうするかはご本人の状態と検査の結果を診たうえでの判断になりますので、ここでは進め方の骨組みとして読んでいただければと思います。
- まず全部を一枚にする。お薬手帳が分かれていれば一冊にまとめ、市販薬やサプリメント、湿布や目薬まで含めて、今飲んでいるもの・使っているものを並べます。ここが抜けていると、正しい判断ができません
- それぞれの「理由」を確かめる。いつから、どの症状に対して、どの医療機関から出ているのか。理由がはっきりしない薬が見つかることは、実際よくあります
- 優先順位をつける。命に関わる薬、症状を抑えている薬、予防のための薬では重みが違います。ご高齢で体力が落ちてきた方の場合、何十年先を見据えた予防薬の位置づけは変わってくることもあります
- 変えるときは一つずつ、少しずつ。まとめて減らすと、変化が起きたときに何が原因か分からなくなります。一剤ずつ、量を落としてから中止する、という段取りを踏みます
- 変えたあとを見届ける。ここが在宅医療の強みだと思っています。定期的に伺っているので、減らした後の体調や血圧、採血の値を続けて確認できます。具合が悪ければ戻せばいい、という前提で試せるのです
他の医療機関から出ているお薬については、必要に応じて処方元の先生と連絡を取り、情報を共有しながら進めます。薬局の薬剤師さんに入っていただくこともあります。飲み残しや管理の負担そのものが大きい場合は、訪問薬剤という仕組みで、一包化や薬の届け方から整えていく方法もあります。
ゴールは「減らすこと」ではありません
薬の見直しというと、一錠でも少なくするのが良いことのように聞こえますが、そうではありません。必要な薬は、しっかり飲み続けていただく必要があります。減らすこと自体が目的になってしまうと、かえって症状を悪くしかねません。
目指したいのは、ご本人とご家族が「この薬は何のために飲んでいるか」を言える状態だと思っています。数が同じままでも、一つひとつに納得があれば、飲み忘れは減り、体調の変化にも早く気づけるようになる。逆に、理由が分からないまま口に運んでいる薬は、たとえ少なくても不安の種であり続けます。
お盆で久しぶりに顔を合わせて、薬袋の多さが気になった。そんなときは、まずその薬をひとまとめにして、次の受診に持っていくところからで十分です。ご家族が「これは何の薬ですか」と尋ねてくださること自体が、見直しの入口になります。
札幌市内を中心に訪問診療を行っている当院にも、「薬のことだけでも相談していいですか」というお問い合わせをいただきます。もちろん構いません。通院が難しくなってきた方であれば、薬の整理と体調の管理をまとめて家の中で続けていく、という道もあります。気がかりを抱えたままにせず、どうぞ声をかけてください。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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