不定愁訴とは?——高齢者の「なんとなくつらい」が続くとき、在宅でできること

「どこがどう、とは言えないんだけどね。なんとなく、つらいんですよ」。訪問診療でご自宅に伺うと、こういう言い方をされる方がいらっしゃいます。熱があるわけでもなく、痛いところをひとつ挙げられるわけでもない。ご家族からは「病院で検査してもらったけれど、何も異常はないと言われました」と付け加えられることもあります。こうした、はっきりとした原因の見えない不調のことを、医療の世界では不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼びます。暑さが続いてからだが重くなりやすいこの時期、とくに耳にすることが増える訴えでもあります。

「検査は異常なし」でも、つらさは本物です

採血にもレントゲンにも異常が出ない。それでも本人はつらい。この状態がいちばん行き場を失いやすいのだと思います。ご本人は「気のせいだと言われた」と感じて、それ以上訴えなくなってしまう。ご家族は「年のせいかな」と受け止めて、様子見が続く。私たちが心にとめているのは、検査値がすべてを説明してくれるわけではない、ということです。数値に出ないところで起きている変化はたくさんありますし、逆に、はっきりしない訴えの背景に、後から見つかる病気が隠れていることもあります。だから「異常なし」で話を終わりにしないようにしています。

訪問診療でよく伺う「なんとなく」の中身

ご自宅で伺う訴えは、たとえばこんなものです。なんとなく元気が出ない。夜中に何度も目が覚めて、朝までぐっすり眠れない。食事の味が薄く感じて、食が進まない。足がだるい、むくんでいる気がする。理由もなくイライラする、気持ちが落ち着かない。人と話すのがおっくうで、外に出る気になれない。あちこちが痛い。どれも、単独では「病院に行くほどではない」と判断されがちなものばかりです。けれども、こうした訴えがいくつも重なって、日々の生活が少しずつ縮んでいくことがあります。食が細くなっているようなら、高齢者が急に食べなくなったときの考え方もあわせて見ていただけたらと思います。

原因はひとつではなく、小さな要因の重なりかもしれません

不定愁訴を診るときに私たちが最初に疑うのは、「大きな原因がひとつ」ではなく「小さな要因がいくつも重なっている」状態です。お薬が増えて体に合わなくなっていること。夜と昼の生活リズムが崩れていること。暑さや水分不足でからだが消耗していること(夏場は高齢者の脱水症のサインも一緒に確かめます)。ひとり暮らしの寂しさや、これから先への不安。体を動かす機会が減って筋力が落ちていること。あるいは、持病の心不全や貧血がわずかに悪くなっていること。ひとつひとつは小さくても、積み重なるとご本人にははっきりした「つらさ」として感じられます。逆にいえば、重なりのうち一つか二つをほどくだけで、少し楽になることもあります。

家だからわかること、家だからできること

訪問診療の強みは、その積み重なりを、暮らしの場で確かめられることだと思っています。寝室に行けば、夜どのくらい暑いか、明かりや音の環境がどうかがわかります。台所を見せていただけば、この数日どんな食事をされていたかが見えます。お薬の袋を一緒に並べれば、いつから何が増えたのかが並びます。診察室の10分では出てこない話が、お茶をいただきながらの世間話の途中で、ふっと出てくることもあります。そのうえで、お薬を減らせないか検討したり、水分や食事のとり方を一緒に組み直したり、必要な検査を追加したり、といった手を打っていきます。訪問看護やケアマネージャーの皆様と気づいたことを共有しておくと、次の変化にも早く気づけます。

すぐに答えが出ないこともあります

正直に書いておくと、不定愁訴のすべてに、その場で原因を見つけて解決できるわけではありません。検査を重ねてもはっきりしないこともありますし、しばらく経過を見ていくしかない場面もあります。ただ、原因がすぐにわからないことと、放っておくことは別だと考えています。話を聞いて、生活の様子を見て、変化があれば拾えるようにしておく。それだけでも、ご本人の「わかってもらえた」という感覚につながることがありますし、後から見えてくるものもあります。実際、数か月かけてようやく背景が見えてくる、ということも珍しくありません。

「病気未満」の段階で相談していい

「病気じゃないのに相談したら申し訳ない」とおっしゃる方は多いのですが、そんなことはありません。むしろ、はっきりした病名がつく前の段階でこそ、生活の側から手を打てることがあります。まずはかかりつけの先生に、気になっている「なんとなく」をそのまま伝えてみてください。どこに相談したらいいか迷うときは、地域包括支援センターやケアマネージャーの皆様も入り口になります。通院そのものがしんどくなってきているようであれば、訪問診療という選択肢もあります。当院は札幌市中央区に診療所を置き、札幌市内を中心に伺っています。「うまく説明できないのですが」という前置きから始まるご相談で、まったく構いません。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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