高齢者が急に食べなくなった原因と対処法——訪問診療でできること
三食きちんと用意しているのに、茶碗半分も食べずに箸を置いてしまう。ここ数日その状態が続いていて、どう声をかけたらいいのかわからない——ご高齢のご家族の「急に食べなくなった」というご相談は、在宅の現場で本当によくいただきます。
食欲不振は一つの原因だけで起きているとは限りません。今日は、考えられる原因の整理の仕方と、ご家族がまずできること、受診や連絡の目安についてお話しします。
食欲不振の原因は、いくつも重なっていることが多い
「急に食べなくなった」という背景には、脱水、便秘、感染症(尿路感染や肺炎など)、お薬の副作用、飲み込みにくさ(嚥下の問題)、口の中のトラブル(義歯の不具合や口内炎)、痛み、こころの不調、環境の変化など、さまざまな要因が考えられます。多くの場合、これらが一つではなく複数重なって起きています。だからこそ、原因を一つに決めつけず、順番に確認していくことが大切です。
ご家族がまず確認できること
- 水分は口から入っているか(むせるようならとろみをつける)
- 発熱していないか、尿の色やにおいに変化はないか
- 便通はどうか(3日以上出ていない、お腹が張っているなど)
- 食事のときにむせる・咳き込む・痰が増えていないか
- 最近新しく始めたお薬や、量が増えたお薬はないか
食べられない方に無理に食べさせようとすると、誤嚥(食べ物が気道に入ってしまうこと)のリスクが高まります。少量ずつ、食べられる範囲でと切り替えることも一つの選択です。
ご連絡・受診の目安
次のような状態であれば、様子を見ずにご連絡ください。
- ぐったりしている、皮膚が乾いて冷たい(脱水が疑われる)
- 呼吸が速い、39度以上の熱がある
- 急に意識の状態がおかしい、つじつまの合わない言動がある
- 食事のたびに強くむせる
食事量が半分以下の状態が2日以上続いている、便秘が続いてお腹がつらそう、といった場合も、次の定期訪問を待たずにご相談いただくとよい時期です。水分・食事量・体温・むせの有無・排便日・直近の薬の変化をメモしておいていただけると、原因の見立てがしやすくなります。
訪問診療でできること
ご自宅にうかがい、診察やバイタルの確認、必要に応じて在宅での採血や点滴を行います。脱水があれば点滴で補い、便秘には内服調整や処置で対応し、感染が疑われれば検査のうえで治療方針を決めます。食べにくさが原因であれば、食形態の調整や口腔ケアについてもご提案し、必要に応じて訪問歯科や訪問看護と連携します。
「点滴だけしてほしい」というご相談も少なくありませんが、点滴と並行して、なぜ食べられなくなったのかという原因の評価を行うことも大切にしています。再び同じことが起きないよう、生活全体から一緒に考えていきたいと思っています。
在宅で看取りの時期を過ごしている方の場合は、「食べない」ことへの向き合い方も変わってきます。無理に食べさせることよりも、苦痛をやわらげ、口の中を清潔に保ち、ご家族の不安に寄り添うことを大切にする考え方については、在宅での看取り——家族が準備することの記事でも触れています。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲