人生会議(ACP)って何を話せばいい?——元気なうちに家族で決めておきたいこと

「本人の希望を聞いておけばよかった」——ご家族から、この言葉をお聞きすることがあります。急に具合が悪くなって、本人が自分の気持ちを言葉にできない状態になってから、治療をどこまで行うか、どこで過ごすかを家族が決めなければならない。決めた側には「これでよかったのだろうか」という問いが長く残ります。

その負担を少しでも軽くするための取り組みが、「人生会議」(ACP=アドバンス・ケア・プランニング)です。名前は聞いたことがあっても、いざ何を話せばいいのかとなると、途端に手が止まる。今日は、人生会議で具体的に何を話し合えばいいのか、どう切り出せばいいのかを、日々の訪問先での実感も交えて書いてみます。

人生会議(ACP)とは——「決めること」より「話しておくこと」

人生会議は、もしものときに自分がどんな医療やケアを受けたいか、どこでどう過ごしたいかを、本人・家族・医療や介護に関わる人であらかじめ話し合っておく取り組みです。「人生会議」は、厚生労働省がアドバンス・ケア・プランニング(ACP)につけた愛称で、毎年11月30日が「人生会議の日」とされています。

名前に「会議」とつくので、全員が集まって書類にサインする場面を思い浮かべる方が多いのですが、実際はもっとやわらかいものです。テレビで終末期の話題が流れたときに「自分だったらどうかな」と話す。入院から戻ってきた食卓で「もう病院は少し疲れたな」ともらす。そういう会話の積み重ねのほうが、実際には本人の気持ちをよく伝えてくれます。

大切なのは、結論を出すことより、考えていることを家族が知っている状態をつくることです。何も決まっていなくても、「本人は家にいたいと言っていた」と分かるだけで、いざというときに家族が選びやすくなります。

なぜ「元気なうちに」なのか

人生の最終段階では、本人が自分の意思をはっきり言葉にできなくなることが少なくありません。意識の状態や、認知機能の変化、呼吸が苦しくて話すのがつらい状況など、理由はさまざまです。そうなってから「どうしますか」と問われても、本人はもう答えられず、家族が推し量って決めることになります。

訪問診療の場面でも、ご本人が穏やかに話せる時期と、そうでない時期があります。体調が落ち着いているときに一度でも気持ちを聞けていると、その後の相談がぐっと具体的になる。逆に、急な変化が起きてからの話し合いは、限られた時間の中で結論を求められるぶん、家族の心の負担が大きくなります。

だから、人生会議は「弱ってきたら考えるもの」ではなく、体調が落ち着いていて、本人が自分の言葉で話せるうちに始めておくものだと考えています。

何を話せばいい?——四つの入口

「話し合いましょう」と言われても、いきなり治療の話から入るのは、本人にも家族にも重すぎます。訪問先でご家族に説明するときは、次の四つを入口としてお伝えしています。全部を一度に埋める必要はなく、話しやすいものから一つずつで十分です。

① どこで過ごしたいか

いちばん答えやすく、いちばん実務に効くのがこれです。家で過ごしたいのか、施設や病院のほうが安心なのか。家がいいとしても「動けるうちは家、つらくなったら病院」という段階的な希望もあります。ここが分かっていると、体調が変わったときに介護と医療の体制をどう組むかの判断が早くなります。

② 自分が話せなくなったとき、誰に代わりに話してほしいか

これは見落とされがちですが、実はとても大事な項目です。医療の選択を迫られる場面で、家族の間で意見が分かれることがあります。「この人の判断にまかせる」と本人が生前に言っていたかどうかで、残されたご家族の重さがまるで違います。同居している方とは限りません。遠方のきょうだいや、長く付き合いのある方を挙げる方もいます。

③ 何を大事にして過ごしたいか

医療の希望そのものより、その手前にある価値観です。痛みや苦しさをできるだけ抑えたい。眠ってしまうより、家族と話せる時間を優先したい。最後まで自分でトイレに行きたい。庭が見える部屋にいたい——こうした言葉は、あとから具体的な医療の選択を考えるときの物差しになります。

④ 受けたい医療・控えたい医療

点滴や酸素、口から食べられなくなったときの栄養の取り方、救急車を呼ぶかどうか。ここは医学的な説明が必要な部分なので、家族だけで結論を出そうとしなくて構いません。「こういうときはどうなるのか」を主治医や訪問診療の医師に聞きながら、少しずつ考えていくところです。実際にどの選択ができるかは、そのときの体の状態によって変わりますので、診察のうえで一緒に検討することになります。

「縁起でもない」と言われないための切り出し方

ご家族がいちばん困るのが、この最初の一歩です。真正面から「もしものときのことを話しておきたい」と切り出すと、本人が「まだそんな歳じゃない」「縁起でもない」と身構えてしまうことがあります。

うまくいきやすいのは、自分の話や、他人の話から入る形です。「私も更新のときに免許証の裏に書いたんだけど」「知り合いのお父さんが急に入院して、家族が困ったらしくて」。主語を本人にせず、世間話の延長として置いておくと、本人のほうから「自分はこうしたいな」と話しはじめることがあります。

タイミングも大事です。体調を崩した直後や、入院した直後は避けたほうが無難です。お盆やお正月に親戚が集まったとき、健康診断や免許の更新のとき、身近な方の訃報を聞いたとき——そういう、自然と人生の話が出るきっかけに乗せるのが現実的です。

それでも本人が話したがらないときは、無理に進めなくていいと思っています。「話したくない」ということ自体が、ひとつの意思表示です。そのときは家族の側で「本人はこういう性格だから、たぶんこうしたいはず」という見立てを共有しておくだけでも、十分に意味があります。

一度決めたことは、変わっていい

人生会議でいちばん誤解されているのが、「一度決めたら、それを守らなければならない」という点です。実際には逆で、気持ちは変わる前提でつくられている仕組みです。

元気なころは「延命はしなくていい」と言っていた方が、いざ体調を崩してみると「もう少し家族といたい」と考えが変わることは珍しくありません。それは意思が揺らいだのではなく、状況が変われば大事にしたいものも変わるという、ごく自然なことです。

ですから、話し合いは一回で終わらせず、体調や暮らしが変わったタイミングで何度でも上書きしていくものだと考えてください。入院した、施設に移った、介護の体制が変わった、一年が過ぎた——そのたびに「今はどう思っている?」と確かめ直せば十分です。

書き残す形と、共有しておく相手

話した内容は、簡単でいいので形にしておくと役に立ちます。決まった書式は必要ありません。ノートに日付と本人の言葉をそのまま書いておくだけでも、立派な記録です。市町村や医療機関が配っている「わたしの意思表示ノート」「エンディングノート」のような冊子を使う方もいます。

大事なのは、それが本人以外の目に触れる場所にあることです。引き出しの奥にしまわれたままだと、いざというときに誰も存在を知りません。ご家族のどなたかが保管場所を把握している、あるいは冷蔵庫やお薬手帳など、救急隊や医療者の目に留まりやすいところに置いておく、といった工夫が生きてきます。

そして、話した内容は医療・介護の関係者にも伝えてください。訪問診療の医師、訪問看護師、ケアマネージャー——本人の希望を知っていれば、体調が変わったときの提案の仕方が変わります。当院でも、診察の折にご本人・ご家族の考えを伺い、必要に応じて関係する事業所と共有できるようにしています。実際に自宅で最期まで過ごす場合の流れについては、在宅での看取りの記事にまとめています。

札幌市内で、人生会議のご相談を

人生会議は、家族だけで完結させなければならないものではありません。医学的なことが分からないまま考え込んでしまうより、「こういうときは体がどうなるのか」を医療者に聞きながら進めたほうが、ずっと具体的に話せます。訪問診療の診察は、その相談を挟むのにちょうどよい場でもあります。

当院は札幌市内を中心に訪問診療を行っており、診察の時間に「もしものときの希望」についてのご相談もお受けしています。過ごす場所の選択肢を整理したいときは、終末期医療の選び方もあわせてご覧ください。ご本人・ご家族からはもちろん、ケアマネージャー・地域包括支援センターの皆様からのご連絡もお待ちしています。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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