老衰の「点滴」問題——最期の時間をどう過ごすか、在宅医療の考え方
「食べなくなってきて、点滴くらいはした方がいいんでしょうか」。老衰が進んだご家族を看ている中で、多くの方が一度は口にする言葉です。栄養が足りているか、水分は大丈夫か。愛情ゆえの心配が、点滴という選択肢に向かうのはとても自然なことだと思います。今日はこの「点滴問題」について、当院の考え方を整理してお伝えします。
老衰で「食べない・飲めない」は自然な経過であることが多い
老衰が進むと、内臓の働きが少しずつ弱まり、空腹や喉の渇きそのものを感じにくくなっていきます。無理に食べたり飲んだりしていただこうとすると、かえってむせや誤嚥、お腹の張りといった苦痛につながることも少なくありません。この時期は、「栄養や水分を入れること」よりも、苦痛をできるだけ減らして穏やかに過ごしていただくことに、目標の重心が少しずつ移っていきます。
点滴には向く場面と、向かない場面がある
点滴が助けになる場面もあります。たとえば発熱や下痢などで一時的に脱水が進んでいるとき、内服が難しい時期に痛み止めや吐き気止めを入れたいときなどです。
一方で、体力が落ちた状態での点滴は、むくみや痰の増加、呼吸苦につながることがあります。心臓や腎臓の働きが弱っている場合は特に、水分そのものが体に負担をかけてしまうこともあります。「点滴をすれば楽になる」と一概には言えないのが、この時期の難しいところです。対応の可否や量・期間は、診察のうえで個別に判断しています。
喉の渇きには、口腔ケアが助けになることも
「喉が渇いて苦しいのでは」というご心配には、点滴よりも口の中を湿らせるケアの方が力を発揮することがあります。スポンジブラシやガーゼでの口腔ケア、保湿ジェル、氷のかけらを少し口に含んでいただくことなどです。姿勢を少し起こすと呼吸が楽になる方もいます。ご本人の表情がやわらぐかどうかを、ひとつの目安にしていただければと思います。
決めるときも、決めたあとも、話し合いながら
点滴をするかどうか、するとしてどのくらいの量・期間にするかは、ご本人の状態や病状の経過によって一人ひとり異なります。当院では、診察のうえでメリットと負担のバランスを一緒に考え、まずは試してみて、様子を見ながら見直していくという進め方を大切にしています。一度決めた方針も、いつでも見直して構いません。ご本人にとって楽な状態を、そのつど一緒に探っていければと思います。頻回な訪問看護が必要になる時期には、特別訪問看護指示書についての記事もあわせてご参照ください。
ご家族の気持ちが揺れるのは、自然なことです
「何もしないのはかわいそうな気がする」という気持ちと、「本人を苦しめたくない」という気持ちの間で揺れるのは、多くのご家族が経験することです。答えを一人で抱え込まず、訪問診療医や訪問看護師と一緒に、そのつど考えていただければと思います。終末期の療養場所の選び方については終末期医療の選び方についての記事でも触れています。
点滴をする・しないの結論を急ぐ必要はありません。今の状態でできることを一緒に整理するところから、お力になれればと思います。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲