高齢者が「もう口から食べられない」と言われたら——胃ろう・経管栄養、選び方に迷ったときの考え方

病院の言語聴覚士から「飲み込みの検査をしたところ、これ以上の経口摂取は難しいと思います」と説明を受けたご家族から、ご相談をいただくことがあります。頭では理解していても、次に何をどう決めればいいのか、その場ではなかなか判断がつかない——そういうお話をよく伺います。

先日の誤嚥性肺炎についての記事では、家で気づきたいサインと予防の工夫をお伝えしました。今日はその先、予防を尽くしても「口から食べる」ことが難しくなったとき、ご家族がどう考えていけばよいかを整理してみたいと思います。胃ろうにするのか、経管栄養にするのか、それとも別の道を選ぶのか。この選択に絶対の正解はありませんが、考える順番を知っておくだけで、少し気持ちが楽になることがあります。

経鼻胃管 胃ろう 点滴 見守る

「もう口から食べられない」と言われる場面

ご家族からよく伺うのは、脳梗塞や認知症の進行、あるいはがんなどの病気の経過のなかで飲み込みの力が落ち、入院中に嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)といった検査を受けて、担当医や言語聴覚士から今後の栄養のとり方について相談される場面です。誤嚥性肺炎を繰り返してしまい、そのたびに入退院を重ねるなかで、この話が持ち上がることもあります。

在宅では、もう少しゆるやかに進むこともあります。むせる回数が少しずつ増え、食事の量が減り、気づけば一日のほとんどをうとうと過ごすようになっている——そうした変化のなかで、主治医から今後の栄養方法について一緒に考えましょうというお話をすることがあります。どちらの場合も、突然「決めてください」と言われて戸惑うご家族が多いというのが、正直なところです。

選択肢を整理する——四つの方向性

大きく分けると、次の四つの方向性があります。どれか一つが優れているということではなく、ご本人の状態や希望、ご家族が担える介護の範囲によって、向き不向きが変わってきます。

  • 経鼻胃管(けいびいかん)——鼻からチューブを通して胃まで届け、そこから栄養を送る方法です。特別な処置をしなくてもベッドサイドで始められますが、チューブの違和感から自己抜去してしまう方もいて、長期間の使用には向かないと言われることが多い方法です。
  • 胃ろう——内視鏡を使ってお腹の皮膚から胃に小さな穴(ろう孔)を作り、直接栄養を送る方法です。この処置自体は病院で行われるもので、当院で造設の可否を判断することはありません。経鼻胃管に比べて長期の管理はしやすいとされますが、処置に伴う負担やその後のケアについて、事前に病院から十分な説明を受けていただく必要があります。
  • 点滴(末梢点滴・皮下点滴)——血管や皮下から水分や栄養の一部を補う方法です。比較的始めやすい一方、送れる栄養の量には限りがあり、長期間の主な栄養方法としては十分でないことが多いとされています。
  • 経口摂取を続ける・見守る——誤嚥のリスクを理解したうえで、食べられる範囲で口からの楽しみを続けたり、あえて新たな栄養方法を追加せず、自然な経過を見守るという考え方です。

いずれの方法にも、向いている場面とそうでない場面があります。たとえば胃ろうを選んでも、唾液そのものを誤嚥するリスクはなくならないため、誤嚥性肺炎への注意が不要になるわけではありません。どの選択肢にも良い面と負担になる面があることを、まず知っていただければと思います。

「何もしない」という選択は、見捨てることではありません

ご家族からよく伺うのは、「何もしないなんて、見捨てるみたいで」というお気持ちです。けれど、新しい栄養方法を追加しないという選択は、決してケアをやめることではありません。口の中を清潔に保つ口腔ケア、唇や口の中を湿らせて乾きをやわらげること、安全に食べられる範囲でごく少量のお楽しみとしての食事を続けること、痛みや息苦しさといった苦痛をやわらげること——できることはたくさん残っています。

むしろ、ご本人の負担を増やさず、残された時間をできるだけ穏やかに過ごしていただくことを大切にする、という一つの積極的な選択だと私たちは考えています。

決めるときに考えたい視点

四つの選択肢を並べただけでは、なかなか決められないと思います。私たちが診察の場でご家族と一緒に整理していくのは、次のような視点です。

  • ご本人の意思——以前に「こういうときはどうしたい」と話していたことがあるか。人生会議(ACP)で話し合っていた内容があれば、大切な手がかりになります。
  • 今の状態がどこまで回復・改善する見込みがあるか——一時的な体調不良による嚥下機能の低下なのか、進行性の病気による変化なのかによって、考え方は変わってきます。
  • ご本人の体への負担——処置そのものの負担、管理の手間、合併症のリスクをどう捉えるか。
  • ご家族や介護する方の体制——管理できる人手があるか、通院や訪問の負担をどこまで担えるか。
  • あとで見直せるようにしておくこと——一つに決めたら終わりではなく、「どんな状態になったら、あらためて話し合うか」を、始める前に主治医やご家族の間で共有しておくと、決めたあとの気持ちの支えになります。

ひとりで決めなくていい——相談先

この決断を、ご家族だけで抱え込む必要はありません。入院中であれば主治医や病棟の看護師、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカー(MSW)が相談にのってくれます。在宅に戻ったあとは、ケアマネージャーや地域包括支援センターの皆様も、日々の様子を踏まえた相談先になります。栄養方法を考える前段階として、食欲そのものが落ちてきた場合の原因や対処については、高齢の方が急に食べなくなったときの記事もあわせてご覧いただければと思います。

まずはご相談を

訪問診療でできること

当院が定期的に伺っている方であれば、飲み込みの状態や食事量、体重の変化を診察のたびに確認しながら、ご家族の意思決定に医療者として伴走していきます。ご自宅での点滴によるサポートについてはご相談に応じていますが、内容や量はそのときの状態を診たうえで判断いたします。胃ろうの造設や経鼻胃管の挿入自体は病院で行われる処置のため、必要な場合は連携する医療機関にご紹介し、処置後の日々の管理を在宅で担うという形で関わることが多くあります。どの方法を選んだ場合でも、選んだあとの暮らしを支えるのが、私たちの役目だと思っています。

家族だけで抱え込まないでほしい

この選択に、正解はありません。同じ状態のご本人でも、ご家族によって出す答えは違いますし、それでいいのだと思います。大切なのは、限られた情報のなかで慌てて決めてしまうのではなく、医療者や介護の専門職と一緒に、ご本人にとって何が大切かを話し合う時間を持っていただくことです。札幌市内を中心に訪問診療を行う当院として、こうした重い決断に向き合うご家族に、少しでも寄り添っていければと考えています。迷うことがあれば、遠慮なくご相談ください。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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