高齢者がむせやすくなったら誤嚥性肺炎に注意——在宅で気づきたいサインと予防のヒント

「最近、ご飯のたびにむせるようになったんです」。ケアマネージャーの皆様やご家族から、そんなふうに相談を受けることがあります。晩ご飯の途中で咳き込んで箸が止まる、お茶を一口飲むたびにむせる。そのたびにご家族がびくりとして、顔を見合わせる。よくあることだと思って様子を見ているうちに、実はこの「むせ」こそが、誤嚥性肺炎という病気への入り口になっていることがあります。

訪問診療で高齢の方のお宅に伺うたびに、私たちは「食べる」というあたりまえに思える営みが、どれほど繊細な仕組みで支えられているかを実感します。今日は、誤嚥性肺炎とはどんな病気なのか、家で気づいていただきたいサイン、そして在宅でできる予防の工夫について、この日記でお話ししたいと思います。

誤嚥性肺炎とは——なぜ高齢者に多いのか

ものを飲み込むとき、私たちののどは一瞬だけ気道にふたをして、食べ物や飲み物を食道へ送り込んでいます。この一連の動きを嚥下(えんげ)といいます。ところが加齢とともに、のどの筋力が落ち、ふたを閉じるタイミングも少しずつずれてきます。そこへ食べ物や飲み物、あるいは唾液が気道や肺に入り込んでしまうことを誤嚥(ごえん)と呼び、そこに含まれていた細菌が肺で炎症を起こすのが誤嚥性肺炎です。

加齢による自然な変化に加えて、脳梗塞などの既往、認知症、口の中の乾燥や歯の状態、寝たきりに近い生活、薬の副作用による眠気なども、飲み込む力に影響します。高齢の方が繰り返す肺炎の多くに、この誤嚥が関わっているといわれており、在宅療養をされている方にとっても身近なテーマです。

家で気づきたい、むせ・誤嚥のサイン

重い症状が出るより前に、日常の小さな変化として現れることがほとんどです。訪問先でご家族から伺うのも、たいてい次のような言葉です。

  • 食事中にむせる、咳き込む回数が増えた
  • 飲み込んだあとに、のどがゴロゴロ・ガラガラした声になる
  • 食後に痰が増える、しつこい咳が続く
  • 口の中に食べ物が残りやすい、食べこぼしが増えた
  • 食事にかかる時間が長くなった、お茶や汁物など水分を嫌がるようになった
  • これといった原因が見当たらない微熱や体重減少が続く

「年だから仕方ない」で片づけてしまいがちなサインばかりですが、いくつか重なっているときは、一度診察でのどや食事の状態を確認させていただけたらと思います。

「むせない誤嚥」にも気をつけたい——不顕性誤嚥

むせるのは、体が異物を押し出そうとする大切な反射です。ところが加齢や脳血管疾患、認知症の影響でこの反射そのものが弱くなっていると、誤嚥していてもむせが起こらないことがあります。これを不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)と呼びます。とくに眠っている間に唾液を少しずつ誤嚥してしまうケースは、ご本人もご家族も気づきにくいものです。

不顕性誤嚥のサインとして手がかりになるのは、原因のはっきりしない発熱、とくに夜間や早朝の微熱が続くこと、なんとなく元気がない、食欲が落ちたといった、ぼんやりとした体調の変化です。むせがないからといって安心せず、こうした変化にも目を向けていただきたいと思います。

在宅でできる予防の工夫

姿勢を整える

食事のときは、できるだけ椅子に深く座り、背筋を伸ばして、あごを軽く引いた姿勢をとっていただくと、食べ物が気道に流れ込みにくくなります。ベッド上で食事をとる場合も、上体を起こし、あごが上がりすぎないよう枕やクッションで高さを調整すると安心です。食後すぐに横にならず、しばらく座った姿勢を保っていただくのも、逆流や誤嚥を防ぐ工夫のひとつです。

食事の工夫

ひと口の量を少なめにし、しっかり飲み込んでから次のひと口に進むこと、食べながら話しかけすぎないことも、誤嚥を減らす助けになります。お茶やみそ汁のようなさらさらした水分は、実はもっとも誤嚥しやすい形状のひとつです。むせが増えてきた方には、とろみをつける、少し温度をつけるなど、飲み込みやすい工夫を試していただくこともあります。どのくらいのとろみが合うかは飲み込みの状態によって変わりますので、気になる場合は診察のときにご相談ください。

口腔ケア

誤嚥性肺炎は、口の中の細菌が唾液や食べ物と一緒に肺に入り込むことで起こります。つまり、口の中を清潔に保つこと自体が、そのままリスクを減らす工夫になります。毎食後の歯磨きや義歯の手入れ、うがいを続けていただくこと、口から食べる量が少ない方でも、口の中や舌を清潔に保っていただくことは、誤嚥性肺炎の予防につながる大切な習慣です。

心配なサインが出たとき、どこに相談すればいいか

むせが増えた、食事に時間がかかるようになった、といった変化がゆるやかに進んでいる場合は、次の診察や訪問の機会に教えていただければ、そのときの様子を拝見しながら食事の形態や姿勢を一緒に見直していきます。食欲そのものが落ちてきた場合は、食べなくなったときの原因と対処についての記事もあわせてご覧ください。

一方で、高熱が出た、呼吸が苦しそうで肩で息をしている、唇や顔色が悪い、ぐったりして呼びかけへの反応が鈍い——このような状態は、様子を見ずに救急要請を検討していただきたい場面です。判断に迷うときの考え方は救急車を呼ぶ目安についての記事にもまとめています。

訪問診療でできること

当院が定期的に伺っている方であれば、診察のたびに食事や水分の量、体重の変化、口の中の状態、そして聴診で呼吸の音を確認しています。眠気やふらつきの原因になりやすいお薬が使われている場合は、内容を見直すこともあります。肺炎が疑われる場合は、重症度を診たうえで、自宅での経過観察や治療で対応できる場合もあれば、入院での治療が必要と判断する場合もあり、そのときの状態に応じて丁寧に判断いたします。飲み込みの状態を専門的に評価したほうがよいと判断したときは、言語聴覚士など専門職への相談も含めて、ケアマネージャーの皆様と一緒に今後の方針を考えていきます。

「食べる」を、できるだけ長く支えたい

食べることは栄養をとる手段であると同時に、一日の楽しみでもあります。むせが増えてきたからといって、すぐに食事の形を大きく変える必要はありません。姿勢を少し整える、ひと口を小さくする、口の中を清潔に保つ——そうした小さな工夫の積み重ねが、リスクを減らす助けになります。気になる変化があれば、遠慮なくご相談ください。札幌市内を中心に訪問診療を行う当院として、食卓の小さな変化にもこれからも目を配っていきたいと思います。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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