腹水で「お腹に水がたまっている」と言われたら——原因と、家でできること

「病院の先生から、お腹に水がたまっていると言われまして」。訪問診療のご相談で、ご家族がそう切り出されることがあります。説明を受けた帰り道、その一言だけが耳に残って、家に着いてから「腹水」と検索してみた——そんな夜を過ごされた方も、少なくないのではないかと思います。

腹水(ふくすい)という言葉は、それ自体が病名のように聞こえますが、実際には「お腹の中に水分がたまっている状態」を指す言葉です。原因はひとつではなく、そこが分かると、家での過ごし方も少し見通しが立ってきます。今日はこの日記で、腹水とはどういうものか、家で気づいていただきたいサイン、そして在宅でできることについてお話しします。

腹水とは——お腹に水がたまるとはどういう状態か

お腹の中には、胃や腸などの臓器を包む腹膜(ふくまく)という膜があり、そのすき間には、もともとごく少量の水分があります。臓器どうしがなめらかに動くための潤滑油のようなものです。ところが何らかの原因でこの水分が過剰につくられたり、うまく吸収されなくなったりすると、お腹の中に水がたまっていきます。この状態が腹水です。

量が少ないうちは自覚がなく、別の目的で受けたエコーやCTの検査でたまたま見つかることもあります。増えてくると、お腹が張って苦しい、服がきつい、食事が入らないといった、暮らしそのものに響く症状として現れてきます。

腹水の原因——「なぜたまったのか」で対応が変わる

腹水は病名ではなく状態を指す言葉ですから、大切なのは「なぜたまったのか」です。代表的な原因をあげてみます。

肝臓の病気

肝硬変などで肝臓の働きが落ちると、血液中のアルブミンというたんぱく質が減り、血管の中に水分をとどめておく力が弱くなります。あわせて、肝臓へ流れ込む血管の圧が高くなることも重なり、水分がお腹にしみ出しやすくなります。腹水の原因として、昔からよく知られているのがこのタイプです。

がん

がんが腹膜に広がると、腹膜から水分がしみ出し、吸収も妨げられて腹水がたまります(がん性腹水)。胃がん・大腸がん・卵巣がん・膵臓がんなどで見られます。がんの療養を家で続けている方にとって、お腹の張りは日々の過ごしやすさに直結する、とても切実な症状です。

心臓や腎臓の病気

心不全で血液を全身に送り出す力が落ちると、体に水分がたまりやすくなります。足のむくみが先に目立つことが多いのですが、進むとお腹にも水がたまってきます。腎臓の働きが落ちて、たんぱくが尿に漏れ出るような場合も、同じように水分がたまりやすくなります。

栄養状態

食が細くなってたんぱく質が不足し、アルブミンが下がると、水分が血管の外へ移動しやすくなります。高齢の方の場合、これらの原因がひとつではなく、いくつか重なっていることも珍しくありません。

家で気づきたい、腹水のサイン

訪問先でご家族から伺うのは、たいてい次のような言葉です。

  • お腹が張って苦しい、見た目にふくらんできた
  • ズボンやスカートのウエスト、ベルトの穴がきつくなった
  • 数日から一、二週間で体重が数キロ増えた
  • すねや足の甲がむくむ、靴下のあとが深く残る
  • 少し食べただけでお腹がいっぱいになる、食欲が落ちた
  • 横になると息苦しく、起きているほうが楽
  • 尿の量が減ってきた

なかでも体重は、むくみや腹水に気づくいちばん手軽な手がかりです。食べる量は減っているのに体重が増えている——これは、体に水分がたまっているサインとして、ぜひ気にとめていただきたい変化です。

在宅でできること

体重と、できればお腹まわりを記録する

毎日でなくても構いません。朝起きて排尿をすませたあとなど、同じ条件で体重をはかり、日付とともに書き留めておいていただくと、増えているのか落ち着いているのかがはっきりします。メジャーでおへその高さのお腹まわりをはかっておくのも、見た目の印象よりずっと確かな記録になります。診察のときにこのメモを見せていただけると、お薬の効き具合を判断し、次の一手を考えるうえで、とても助けになります。

塩分はひかえめに

塩分をとると、体は水分を抱え込みやすくなります。腹水があるときに減塩がすすめられるのは、このためです。とはいえ、味気ない食事は食欲そのものを落としてしまいます。だしや酸味、香りのある薬味を使う、汁物は具を中心にしてつゆを残す、しょうゆを「かける」から「つける」に変える——このくらいの工夫から始めるのが現実的だと思います。どの程度ひかえるとよいかは原因や体の状態によって変わりますので、診察のときに一緒に決めていきましょう。

水分は、自己判断で極端に減らさない

「水がたまっているのだから、飲む水を減らせばよいのでは」と考える方がいらっしゃいます。ところが、原因や治療の内容によっては、水分を減らしすぎることで脱水や腎臓への負担を招き、かえって体調を崩してしまうことがあります。水分の制限が必要かどうか、必要ならどのくらいかは、自己判断で決めずに主治医へご確認ください。

お薬は指示どおりに

利尿薬が処方されている場合、効きすぎても効かなくても、体には負担がかかります。「今日はお腹が張るから多めに」といった自己判断での増減は避けてください。ここでも体重の記録があると、量の調整がしやすくなります。

少しでも楽に過ごす工夫

お腹が張って横になると苦しいときは、上半身を少し起こした姿勢のほうが楽なことがあります。背中にクッションを入れる、介護ベッドの背上げ機能を使うなど、その方に合った角度を探してみてください。「夜、苦しくて眠れない」というご相談もよくいただきます。仰向けがつらいときは、横向きになって膝を軽く曲げ、膝の下や足の間にクッションを挟むと、楽な姿勢を取りやすくなることがあります。どの姿勢が楽かはその方によって違いますので、いくつか試しながら探していただけたらと思います。お腹の皮膚は張って乾燥しやすくなりますので、保湿もしていただけたらと思います。ウエストを締めつけない衣類に替えるだけでも、過ごしやすさは変わります。

訪問診療では、何をしているか

当院が定期的に伺っている方であれば、診察のたびに、お腹の張り具合、足のむくみ、体重の変化、呼吸の様子を確認しています。必要に応じて在宅で採血を行い、アルブミンや腎機能、肝機能などを見ながら、利尿薬の種類や量を調整していくこともあります。

お腹にたまった水を抜く処置(腹水穿刺)については、原因やその方の体の状態によって、行うべきかどうか、どこで行うのが安全かが変わります。抜けば一時的に楽になる一方で、たんぱくが失われて体力に響くこともあり、慎重な判断が必要です。ご本人のご希望や暮らしの状況を伺いながら、病院の主治医とも相談し、診察のうえで方針を一緒に考えていきます。

がんの療養中で、痛みや張りをやわらげることを中心に考えていく時期には、在宅緩和ケアの視点も欠かせません。この点はがんの終末期と在宅緩和ケアの記事でも触れています。

早めに相談してほしいサイン

次のような変化があるときは、次の訪問を待たずにご連絡ください。

  • 発熱があり、お腹を押すと痛い(腹水に感染が起きていることがあります)
  • 息が苦しく、横になれない
  • 尿がほとんど出ない
  • 数日でお腹の張りが急に強くなった、体重が一気に増えた
  • 意識がぼんやりしている、つじつまの合わないことを言う

とくに発熱とお腹の痛みが重なるときは、早めの連絡をお願いします。夜間などに判断で迷われたときの考え方は、救急車を呼ぶ目安についての記事にもまとめています。

お腹の張りは、暮らしの質に直結する

腹水は、原因となっている病気そのものと向き合う必要がある一方で、「お腹が張って眠れない」「食べられない」という、その日その日の過ごしやすさに直接ひびく症状でもあります。検査の数値を整えることと同じくらい、今日を少しでも楽に過ごしていただくこと。私たちはそこを大事に考えています。お腹の張りが気になる、体重が急に増えた——そんな変化に気づかれたら、どうぞ遠慮なくお知らせください。札幌市内を中心に訪問診療を行う当院として、暮らしの中の小さな変化にこれからも目を配っていきたいと思います。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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