がんの終末期、家に帰れる?——在宅緩和ケアと医療用麻薬への誤解
「これ以上、体に負担をかける治療はお勧めできません」——病棟の面談室でそう告げられた瞬間のことを、ご家族はよく覚えていらっしゃいます。続いて交わされるのは、たいてい本人の「家に帰りたい」というひとことです。喜んでいいはずのその言葉に、家族の顔がふっと曇る。訪問診療の現場で、何度も見てきた場面です。
「家に帰してあげたい」という気持ちと、「何かあったらどうしよう」という不安が同時に押し寄せる。今日は、がんの終末期を自宅で過ごすという選択肢について、在宅緩和ケアで実際に何ができるのか、そして多くの方が誤解している医療用麻薬について、お話ししたいと思います。
在宅緩和ケアとは、何をするところか
在宅緩和ケアは、がんそのものをどうにかするための治療ではなく、痛みや息苦しさ、だるさといった体のつらさを和らげ、その人らしい時間をできるだけ自宅で過ごせるように支える医療です。当院でも、がんの緩和ケアや看取りを希望される方の訪問診療をお受けしています。
「積極的な治療をやめる」ことと「何もしなくなる」ことは、イコールではありません。むしろ、症状を軽くすることに専念できる分、意識がはっきりしている時間や、ご家族と言葉を交わせる時間が増えたと感じるご家族は少なくないようです。
退院が決まったら、まず誰に相談すればいいか
病院にいる間から動き出せることがいくつかあります。まず、病院の緩和ケアチームや退院支援の看護師、医療ソーシャルワーカーに、「家に帰りたい」という本人の希望を伝えてください。そこから、在宅医(訪問診療のクリニック)や訪問看護ステーション、ケアマネージャーへと連絡がつながっていきます。当院にも、退院前カンファレンスにあわせてご相談をいただくことがあります。準備の具体的な流れについては、以前の記事「退院が決まったら何を準備する?」でも触れていますので、あわせてご覧ください。
在宅で、痛みやつらさにどう向き合うか
在宅緩和ケアでは、医師が定期的に訪問し、痛みの強さや薬の効き方を確認しながら、そのつど調整していきます。夜間や休日に症状が急に強くなったときの連絡先を決めておくこと、訪問看護と役割を分担しながら見守ることも、在宅ならではの体制です。点滴や酸素投与など、その他の医療的なケアが必要かどうかは、実際に診察したうえで、できることとできないことを含めてご相談しながら判断していきます。
「医療用麻薬」への誤解を、ここで解いておきたい
がんの痛みの治療でよく使われるのが、医療用麻薬(オピオイド)です。この言葉を聞くと、「依存症になるのでは」「そこまで弱ったら、もうおしまいなのでは」と身構える方が今でも多くいらっしゃいます。ここは、ぜひ誤解をといておきたいところです。
- 痛みの治療として医師の管理のもとで使う医療用麻薬は、快楽を目的とした使い方とは体への働き方が異なり、一般に依存症にはなりにくいとされています。
- 医療用麻薬を使ったからといって、寿命が縮まるわけではありません。むしろ、痛みで消耗していた体力や食欲が保たれる場合もあります。
- 「最後の手段」ではありません。痛みの強さに応じて、比較的早い段階から使い始めることも珍しくありません。
- 量は一律ではなく、その人の痛みの強さに合わせて少しずつ調整していきます。眠気やふらつきなど気になる変化があれば、そのつど相談しながら見直します。
こうした説明を聞いても、実際に薬を目の前にすると不安になるのは自然なことだと思います。分からないことは、そのつど遠慮なく聞いていただいて構いません。
家族の不安——夜、眠れなくなること
「夜中に何かあったらどうしよう」という不安は、在宅で過ごすと決めたご家族のほとんどが抱えるものです。当院は急変時、24時間対応の窓口を設けています。実際に何かが起きたときの連絡先が決まっているというだけで、張り詰めていた気持ちが少しゆるむ、そう話してくださるご家族もいます。眠れない夜が続くようであれば、それもまた相談していただきたいことのひとつです。ご家族の体調が崩れてしまっては、在宅での療養そのものが続けにくくなってしまいます。
家と病院を、行ったり来たりしてもいい
在宅を選んだからといって、最後まで自宅で過ごさなければならないわけではありません。症状が急に強くなって入院が必要になることもありますし、いったん入院して落ち着いてから、また自宅に戻るという道もあります。「一度家に帰ると決めたのに、また病院に戻るのは負けたようで嫌だ」と感じるご家族もいらっしゃいますが、そこに勝ち負けはありません。そのときどきで、本人と家族にとって過ごしやすい場所を選び直してよいのです。人生の終わりに近い時期にどう過ごしたいかを、元気なうちから話し合っておく「人生会議」については、以前の記事でも取り上げました。
札幌市内で、在宅緩和ケアのご相談を
「家に帰れるのだろうか」という問いに答えるには、実際に本人にお会いして、体の状態を診察させていただく必要があります。当院は札幌市内を中心に、がんの緩和ケアや看取りを含めた訪問診療を行っています。病院にいる間からのご相談も、退院が決まってからのご相談も、どちらも承ります。ご本人・ご家族はもちろん、病院の緩和ケアチームやケアマネージャー、医療ソーシャルワーカーの皆様からのお問い合わせもお待ちしています。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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