退院が決まったら何を準備する?——病院から在宅へ、家族が最初にすること
「来週、退院できそうです」。病棟でそう言われた瞬間、ほっとする気持ちと同時に、頭の中が一気に忙しくなる——ご家族からそんなお話を伺うことがあります。入院前と同じ暮らしに戻れるとは限らない。歩ける距離が短くなった、食事の形が変わった、薬が増えた、傷の処置が続いている。そのままの状態で家に帰ることになったとき、何を、どの順番で整えればいいのか。病院の中では説明を受けても、家に着いた日から誰に相談すればいいのかは、意外と分からないままになりがちです。
今日は、退院が決まってから在宅の生活に切り替わるまでに、ご家族が最初にしておくと後が楽になることを、順番に沿って書いてみます。
退院後の医療を「どこが担うか」を最初に決める
準備の出発点は、退院してからの通院・診察をどこが引き受けるのかをはっきりさせることです。ここが決まらないまま退院日を迎えると、薬が切れる、傷の処置が止まる、次の予約が分からない、といった困りごとが一度に押し寄せます。
選択肢は大きく三つあります。入院していた病院の外来に通い続ける、近くのかかりつけ医に引き継ぐ、そして自宅に医師が訪問する訪問診療に切り替える、です。どれが合うかは、病状よりもむしろ「通えるかどうか」で決まる部分が大きいと感じています。
- 付き添いがいても外出そのものが負担で、診察を受ける前に疲れきってしまう
- 車いすや介助が必要で、家族の仕事を毎回調整しないと通院できない
- 入退院を繰り返していて、次に体調を崩したときの相談先を決めておきたい
- 点滴や在宅酸素、傷の処置など、家で続ける医療的なケアがある
こうした状態が当てはまるなら、訪問診療という選択肢を早めに検討してよいと思います。実際に対象になるかどうかは病状や住まいの状況によって変わるので、診察のうえで判断することになりますが、「まだ早いだろうか」と迷った段階でご相談いただいて構いません。退院後の在宅療養についてのご案内にも、当院にご相談いただく場合の窓口をまとめています。
退院前カンファレンスは、家族が聞ける貴重な場
退院が近づくと、病院の医師・看護師・医療ソーシャルワーカー(MSW)と、在宅側の医師・訪問看護・ケアマネージャーが集まって話し合う「退院前カンファレンス」が開かれることがあります。当院も、ご依頼があればこの場に参加しています。
この打ち合わせは、在宅側が病状を引き継ぐための場ですが、ご家族にとっては、退院後の暮らしを具体的に描ける貴重な機会でもあります。遠慮せずに、生活の目線で質問してよい場だと思っています。
聞いておくと、家に帰ってから慌てずに済むのは次のような点です。
- 今の病状と、これから起こりうる変化。どんな症状が出たら連絡が必要か、目安を教えてもらう
- 薬の内容と、次にどこで処方を受けるか。退院時に何日分もらえるのかもあわせて確認する
- 処置やケアの続き。傷の手当てや点滴、カテーテル類の管理を、家では誰がどのくらいの頻度で行うのか
- 食事と水分の形。とろみが必要か、刻む必要があるか。買い物や調理の準備につながります
- 体の動き。トイレや入浴、ベッドからの起き上がりに、どのくらい手が必要か
- 夜間や休日に困ったときの連絡先。これは在宅に移る前に、紙に書き出しておきたい項目です
介護の体制はケアマネージャーと。申請は入院中から動ける
医療の受け皿と並んで大事なのが、介護のサービスをどう組むかです。ベッドや手すりのレンタル、訪問介護、デイサービス、訪問入浴——こうした介護保険のサービスは、ケアマネージャーが計画を立てて手配します。
まだ要介護認定を受けていない場合、申請は入院中にも進められます。窓口はお住まいの区の担当課や地域包括支援センターで、病院の医療ソーシャルワーカーが一緒に動いてくれることも多い部分です。認定の結果が出るまでには時間がかかりますが、暫定的な計画でサービスを始められる場合もあります。退院日が決まってから慌てて動くより、決まりそうだと分かった時点で相談を始めておくほうが、後の段取りはずいぶん楽になります。
すでに担当のケアマネージャーがいる方は、入院中の様子や退院の見通しを早めに伝えておくと、退院日に合わせてベッドや福祉用具が届くように段取りしてくれます。「入院したこと自体を伝え忘れていた」というのは、実は珍しくありません。
薬・医療機器・衛生材料の引き継ぎを確認する
退院当日によくあるのが、「持ち帰った薬がいつまで分なのか分からない」「処置に使うガーゼやテープが、明日にはもう足りない」という状況です。病院から渡される物には期限があり、その先は在宅側で用意していくことになります。
退院前に、次の三つは書き出しておくことをおすすめします。ひとつめは薬——何日分渡されているか、次はどこで受け取るか、飲み方が変わった薬はどれか。ふたつめは処置に使う材料——ガーゼ、テープ、消毒用品などを誰が用意するのか。三つめは機器類——在宅酸素や吸引器、ベッドなどのレンタル手配が退院日に間に合っているか。
退院直後は、体調も生活のリズムも不安定になりやすい時期です。傷の処置や体調観察のために、しばらく訪問看護に頻回に入ってもらったほうがよい場合もあります。こうした調整は、医師が指示書を出すことで組み立てられます。必要かどうかは状態によりますので、退院前カンファレンスや初回の診察の場で相談していただければと思います。
帰ってきてからの数日に、備えておきたいこと
家に戻った直後は、病院という24時間見守られていた環境から、急に自宅へ切り替わるタイミングです。ご家族が一番不安になるのも、この数日だと思います。
- 緊急時の連絡先を、電話のそばに紙で貼る。訪問診療の連絡先、訪問看護、ケアマネージャー、救急の判断に迷ったときの相談先。スマートフォンの中だけに入れておくと、慌てたときに出てきません
- 寝る場所と動線を先に整える。トイレまでの距離、夜の照明、段差。退院後に転倒して再入院となるケースは少なくありません
- 「いつもと違う」の基準を家族で共有する。食事量、水分、排泄、眠り方。普段の様子を知っているご家族の違和感は、検査値より早いことがあります
- 介護する側の予定も見ておく。最初の一週間に無理をしすぎると、その後が続きません。頼れるサービスは最初から使って構いません
そして、迷ったら早めに連絡していただくこと。「こんなことで電話していいのか」と我慢された結果、対応が後手に回ってしまうほうが、私たちにとっては困ります。判断に迷う段階のご相談こそ、在宅医療の出番だと思っています。
札幌市内で、退院後の在宅療養のご相談を
退院の準備は、医療・介護・住まいの三つを同時に進める作業です。ご家族だけで全部を背負う必要はなく、病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、ケアマネージャー、そして在宅医療の側と、役割を分けて進めていけます。
当院は札幌市内を中心に訪問診療を行っており、退院前カンファレンスへの参加や、退院日に合わせた初回訪問のご相談をお受けしています。訪問診療をどう始めるかについては相談から初回訪問までの流れにまとめていますので、あわせてご覧ください。ご本人・ご家族からはもちろん、病院の医療ソーシャルワーカーやケアマネージャーの皆様からのご連絡もお待ちしています。連携の窓口やご依頼の流れはケアマネージャー・相談員の方向けのご案内にもまとめています。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲