訪問診療クリニックの選び方——後悔しないために確認したい5つのこと

「病院の相談員さんから、この三つのうちどこかに決めてくださいと言われまして」——退院の面談を終えたご家族から、そんなふうに切り出されることがあります。手元にはパンフレットが数枚。どれも似たようなことが書いてあって、正直、違いが分からない。決める材料がないまま、退院の日だけが近づいてくる。

訪問診療のクリニックは、一度お願いすると長いお付き合いになることが多いのに、比べるための情報が世の中にあまり出回っていません。今日は、自分が家族の立場だったら何を聞くだろうと考えながら、決める前に確認しておきたい五つのことを書いてみます。特定のクリニックをすすめる話ではなく、どこに尋ねても答えが返ってくるはずの、素朴な質問のリストだと思ってください。

訪問診療は「選んでいい」ものです

最初にお伝えしたいのは、訪問診療は選んでよいということです。病院から名前を挙げられると、そこに決めなければいけない気がしてしまいますが、どの医療機関にかかるかを決めるのは、患者さんとご家族です。話を聞いてみて違うと感じたら、別のところに相談し直しても構いませんし、始めたあとで変更することもできます。

とはいえ、比べる基準がなければ選びようがありません。ここから、五つの角度に分けて見ていきます。

①「24時間対応」の中身を聞いてみる

訪問診療のパンフレットには、ほぼ例外なく24時間対応と書かれています。ただ、この言葉が指している中身は、医療機関によって少しずつ違います。

聞いておきたいのは、夜中に電話をしたとき、誰が出るのかという点です。ふだん診てくれている医師や看護師につながるのか、外部の窓口が一次受けをするのか。そして、必要と判断されたときには往診に来てもらえるのか、それとも原則は電話での助言と救急要請の案内までなのか。どれが良い悪いという話ではなく、夜間に何を期待できるのかを始める前に知っておけるかどうかの違いです。

「在宅療養支援診療所(在支診)」という届出をしている診療所かどうかも、一つの目安になります。この届出には、24時間連絡が取れる体制を整えることなどの条件があります。制度としての中身は在支診についてまとめた記事で詳しく書いていますので、そちらもご覧ください。当院も在宅療養支援診療所として、受付時間外の急変には24時間の窓口を設けています。

②対応エリアと、駆けつけるまでの時間

二つめは、ご自宅がそのクリニックの対応エリアに入っているかどうかです。ここには制度上の決まりがあり、原則として診療所からおおむね16キロメートル以内が訪問診療の範囲とされています。ただ、実務の感覚でいえば、距離そのものよりも「何分で着けるか」のほうが大切です。

札幌の場合、冬は同じ距離でも所要時間がまるで変わります。除雪の入っていない路地、渋滞、坂道。夏なら15分の道のりが、真冬の朝には倍かかることも珍しくありません。エリアの端に近いお宅ほど、この差が効いてきます。「うちの住所だと、急ぐときはどれくらいで来られますか」と、遠慮なく聞いてよいところだと思っています。

③どこまで家でできて、どこから病院なのか

三つめは、診療の中身です。血圧や薬の管理を中心に考えているのか、点滴や採血、傷の処置、酸素、たんの吸引といったことまで家で続けられるのか。持病によって必要になる医療は違いますから、いま受けている治療を具体的に伝えて、それを在宅で続けられるかを確認するのが早道です。

あわせて尋ねておきたいのが、対応できないときにどうなるかです。在宅でできることには限りがあり、検査や入院のために病院にお願いする場面は、どうしても出てきます。そのときにすぐ相談できる病院とのつながりがあるか、訪問看護や薬局、歯科とどう連携しているか。一人の医師だけで完結する医療ではないので、後ろにどんな体制があるかは、思っている以上に効いてきます。

当院の場合は、内科の一般的な診療に加えて、精神科・皮膚科の顧問医と連携しながら診療にあたっています。ただ、何をどこまでご自宅で行えるかは病状によって変わりますので、診察のうえで判断させていただくことになります。

④お金の説明が、聞く前に出てくるか

費用の話は、こちらから切り出しにくいものだと思います。だからこそ、尋ねる前に説明があるかどうかは、その医療機関の姿勢がよく表れるところです。

訪問診療は保険診療ですので、自己負担の割合は年齢や所得で決まります。確認しておきたいのは、月あたりの負担のおおよその目安、訪問にかかる交通費の扱い、そして夜間や緊急の往診で加算がつく場合の考え方です。ここが曖昧なまま始まると、最初の請求書で驚くことになりかねません。費用の考え方は訪問診療の費用についての記事にまとめています。

高額療養費制度や自立支援医療など、負担を軽くする仕組みが使えるかどうかも、あわせて聞いてみてください。制度の話が自然に出てくるかどうかも、判断の材料になります。

⑤最期まで、そして途中で入院が必要になったとき

五つめは、いちばん先の話です。まだ元気なうちにこの質問をするのは気が引けるかもしれませんが、訪問診療を始める段階で聞いておく価値があります。

看取りまで在宅で診てもらえるのか。ご本人やご家族の気持ちが途中で変わったとき——やっぱり病院がいい、あるいはやっぱり家にいたい——その変更にどう付き合ってくれるのか。在宅を選んだら最後まで家で過ごさなければいけない、という決まりはありません。行きつ戻りつしてよいのだという前提で話を聞いてくれるかどうかは、長いお付き合いのなかで効いてきます。

どう選ぶ? ご家族 ケアマネージャー

最後は、話しやすさで決めていい

五つ挙げてきましたが、正直なところ、最後に効いてくるのは制度や体制の比較ではないと感じています。分からないことを分からないと言えるか。質問したときに、専門用語をかみ砕いて答えてくれるか。ご本人のほうを向いて話しかけてくれるか。

訪問診療は、月に一度か二度、家のなかに他人が入ってくる医療です。台所も、寝室も、家族の関係も、ある程度は見えてしまう。だからこそ、居心地のよさは軽く見ないほうがよいと思っています。最初の相談で「この人になら愚痴もこぼせそうだ」と感じられたなら、それはかなり大きな判断材料です。

迷ったら、ケアマネージャーに聞いてもいい

すでに介護保険を使っている方なら、担当のケアマネージャーは心強い相談相手です。地域のクリニックがどんな動き方をするかを、日々の仕事のなかで見ています。「どこがいいですか」と正面から聞くと答えづらいこともあるので、「夜間に連絡がつきやすいのはどんなところでしょう」「うちの状況だと、どの点を重く見たらいいでしょう」と、条件のほうから尋ねると話が進みやすいはずです。

介護保険をまだ使っていない場合は、お住まいの地域を担当する地域包括支援センターが窓口になります。入院中であれば、病院の医療相談室(地域連携室)の相談員も、地域の医療機関の事情をよく知っています。

全部を調べようとしなくて大丈夫です

五つの確認ポイントを挙げてきましたが、これを全部きちんと調べようとすると、それだけで疲れてしまいます。実際には、電話で二つか三つ質問してみるだけでも、その医療機関の雰囲気はずいぶん伝わってくるものです。

札幌市内を中心に訪問診療を行う当院にも、「まだ決めたわけではないのですが」という段階のお電話をよくいただきます。比較検討の途中で構いませんので、聞いてみたいことがあれば気軽に声をかけていただければと思います。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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