通院のタクシー代が負担になってきたら——診察代以外にかかっている「お金と時間」
訪問診療のご相談をいただくきっかけは、体調のことばかりではありません。「病気そのものは落ち着いているのですが、通院がもう限界で」という切り出し方をされることが、けっこうあります。
詳しく伺っていくと、話は自然とお金と時間のほうへ寄っていきます。歩いてバス停まで行けないので毎回タクシーを呼んでいる。手すりにつかまるのがやっとなので、介助のついたタクシーでないと難しい。付き添う娘さんは、そのたびに半休を取っている——。診察そのものは十分ほどで終わるのに、朝から動きはじめて、帰宅するころには昼をとうに過ぎている。そういう日が、月に何度かある。
今日はこの、通院にかかっている「診察代以外の費用と時間」について書いてみます。医療費の話は病院の窓口で説明を受けられますが、この部分は誰も計算してくれないまま、ご家庭の中だけで静かに積み上がっていくことが多いように思います。
通院にかかっているのは、診察代だけではありません
受診の日にご家庭から出ていくものを並べてみると、思ったより項目が多いことに気づきます。
- 行き帰りの交通費。公共交通が使えなくなると、タクシーが基本になります。歩行が不安定な方や車いすの方は、介助や乗降の手伝いがつく介護タクシーを選ぶことになり、料金の考え方も変わってきます
- 付き添う人の時間。お子さん世代が仕事を休む、あるいは施設や事業所の職員が同行する。半日つぶれることも珍しくありません
- 待ち時間。予約の時間どおりに呼ばれるとは限らず、座って待つこと自体がつらい方もいます
- ご本人の体力。これがいちばん見えにくい出費だと思っています。往復と待ち時間で疲れきってしまい、翌日は一日横になっている、という話をよく伺います
- 複数の科にかかっている場合は、この一式が科の数だけ。内科は今週、整形外科は来週、眼科は再来週、という具合に、月の予定が受診で埋まっていく方もいらっしゃいます
診察代や薬代は明細に残るので比べやすいのですが、この五つは記録に残りません。だからこそ「なんとなく大変」のまま何年も続いてしまいます。
介護タクシーや通院の支援は、まずケアマネージャーへ
通院そのものを続ける前提で負担を軽くする方法も、もちろんあります。介護保険の要介護認定を受けている方であれば、通院の乗り降りや院内での付き添いに介護保険のサービスを組み合わせられる場合があります。福祉有償運送や、お住まいの市町村独自の助成が使えることもあります。
ただ、この領域は制度が細かく、対象になるかどうかは要介護度や状況によって変わります。ですから「うちは使えるのか」という話は、まず担当のケアマネージャーや地域包括支援センターに相談していただくのが確実です。私たち医療機関よりも、そちらのほうがずっと詳しく、実際の手配まで一緒に考えてくれます。
そのうえで、それでも通院の負担が重いままなら——選択肢はもうひとつあります。移動する人を、逆にする、という考え方です。
訪問診療にすると、この項目のいくつかが消えます
訪問診療は、医師が定期的にご自宅や施設へ伺って診察や処方を行うしくみです。ご本人が移動しないので、交通費はかかりません。待合室で順番を待つこともありません。付き添いのご家族も、少なくとも移動の時間からは解放されます(診察のたびにご家族が立ち会わなければならない、というものでもありません)。
肝心の医療費については、訪問診療は医療保険の対象です。ただし訪問回数や検査・処置の有無で月ごとに変わるため、「必ず安くなります」とは言えません。金額の考え方は訪問診療の費用についての記事にまとめてありますので、そちらもあわせてご覧ください。
お伝えしたいのは、比べるなら診察代だけで比べないでほしい、ということです。通院を続けた場合にかかるタクシー代と付き添いの時間まで並べたうえで、「うちの場合はどちらが続けやすいか」を考える。そうやって全体で見ると、印象がずいぶん変わることがあります。私たちも初回のご相談では、お住まいの状況やご希望の訪問頻度を伺いながら、できるだけ具体的にお話しするようにしています。
「まだなんとか通えている」うちに、考えていい
訪問診療のご相談は、通院が完全にできなくなってから、というイメージを持たれがちです。けれど、実際にはもっと手前で検討していただいてかまいません。
目安になりそうなのは、こんな場面です。通院のたびに転倒しそうでひやりとする。帰宅後にぐったりして、翌日まで調子が戻らない。付き添いの都合がつかず、受診を先延ばしにしたことがある。タクシー代が気になって、「今月はやめておこうか」という会話が出た——。受診を我慢するという選択肢が家庭の中に生まれた時点で、それはもう検討していい段階だと私は思っています。薬が切れる、状態の変化に気づけない、という次の困りごとにつながっていきやすいからです。
とはいえ、通院を続けるほうが合っている方もいます。外来でしかできない検査や治療もありますし、外出そのものが良い刺激になっている方もいらっしゃいます。どちらが向いているかの整理は外来通院と在宅医療の比べ方の記事に書きましたので、迷われたときの手がかりにしていただければと思います。
まずは、書き出してみてください
おすすめしたいのは、直近ひと月の受診を紙に書き出してみることです。日付、行った先、交通手段と往復の金額、付き添った人、家を出てから帰るまでの時間。それだけで十分です。
不思議なもので、頭の中にあるうちは「まあ仕方ないこと」なのに、書き出して合計を眺めると、家族で相談する材料に変わります。ケアマネージャーに相談するときにも、この一枚があると話がとても早い。使える制度を探す方向にも、訪問診療を検討する方向にも、そこから進めます。
札幌市内を中心に訪問診療を行っている当院にも、「費用のことだけ聞きたい」「通院と迷っている段階なのですが」というお問い合わせをいただきます。それで構いません。診療をお願いするかどうかは、話を聞いてから決めていただければいいことです。通院の負担を、ご家庭だけで抱え込まないでいただきたいと思っています。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲