心不全の悪化サインに気づくには——息切れ・むくみ・体重増加、家でできる見守り
「退院してきたときは落ち着いていたのに、また足がむくんできまして」。心不全で入退院をくり返している方について、ご家族やケアマネージャーの皆様から、こうしたご連絡をいただくことがあります。前に入院したときと似た様子だから、なんとなくいやな予感がする。けれど受診するほどなのかは分からない——その迷いの中でお電話をくださる方が多いように感じます。
心不全は、良くなったり悪くなったりをくり返しながら、少しずつ進んでいく病気です。だからこそ、悪くなりかけたところで気づけるかどうかが、その後の暮らしを大きく左右します。そして最初の変化が現れる場所は、たいてい病院ではなく家です。今日はこの日記で、心不全の悪化のサインと、家でできる見守りについてお話しします。
心不全とは——ポンプの力が落ちて、体に水がたまる
心不全は、それ自体がひとつの病名というより、心臓のポンプとしての働きが落ちて、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態を指す言葉です。背景には、心筋梗塞や狭心症といった心臓の病気、長年の高血圧、心臓の弁の不具合、不整脈などがあり、高齢の方ではそれらがいくつも重なっていることが珍しくありません。
送り出す力が落ちると、血液は行き場を失って手前でうっ滞します。肺に水がたまれば息苦しさとして、足や体に水がたまればむくみや体重の増加として現れる。心不全の症状の多くは、この「水のたまり方」で説明がつきます。裏を返せば、水のたまり具合を家で見ていれば、悪化の兆しはかなりの部分が見えてくるということでもあります。
心不全の悪化サイン——家で気づける変化
動いたときの息切れが増えた
以前は休まず歩けた距離で立ち止まるようになった。トイレに行って戻るだけで肩で息をする。着替えの途中でひと息つく。——「年のせい」「体力が落ちただけ」と受け止められがちですが、こうした変化は心不全が悪くなりかけているときの、もっとも多いサインです。どのくらいの動作で息が上がるのかを覚えておいていただけると、前回との比較ができて助かります。
横になると苦しい、夜中に息苦しくて目が覚める
横になると、足のほうにたまっていた水分が上半身に戻り、肺のうっ血が強まります。そのため心不全が悪化すると、「座っているほうが楽」「枕を高くしないと眠れない」という状態になります。夜中に急に息苦しくなって起き上がる、という訴えも見逃せません。枕の数が増えていないか、ソファで寝るようになっていないか——暮らしの中の小さな変化として現れます。
足のむくみ、靴下のあとが深く残る
すねや足の甲を指で数秒押して、へこみがしばらく戻らないときは、水分がたまっているサインです。靴下のゴムのあとが夕方になっても深く残る、靴がきつくなった、というかたちで気づかれることもあります。日中ほとんど横になって過ごしている方では、足よりも背中や腰のあたりにむくみが出ることがありますので、体を拭くときなどに触れてみてください。
数日のうちに体重が増えた
食べる量は変わらない、むしろ減っているのに体重が増えているとき、増えているのはたいてい水分です。目安として、二、三日のうちに2kg以上増えていれば、体に水がたまってきていると考えます。むくみが目に見えるようになるより先に数字が動くので、体重は家でいちばん早く気づける物差しです。むくみは足だけでなくお腹にも及ぶことがあり、その場合の考え方は腹水についての記事でも触れています。
食欲が落ちた、なんとなくだるい
意外に思われるかもしれませんが、うっ血が胃や腸のあたりまで及ぶと、食欲が落ちたり、お腹が張ったりします。「最近あまり食べない」「元気がない」という漠然とした変化が、あとから振り返ると心不全の悪化の始まりだった、ということがあります。高齢の方では、息切れよりもこちらのほうが先に目立つことも少なくありません。
悪くなるきっかけ——思い当たることはありませんか
心不全は、何かのきっかけで急に悪くなることがよくあります。訪問診療で伺っていて多いと感じるのは、次のようなものです。
- 塩分のとりすぎ(味の濃い食事、汁物、漬物、行事やお祝いの食事が続いたあと)
- 薬の飲み忘れや、自己判断での中断
- かぜ・インフルエンザ・肺炎などの感染
- 不整脈(心房細動など)が新たに出た、脈が速い状態が続いた
- 水分のとりすぎ
- 無理な活動、睡眠不足、強い心労
- 寒さ(札幌の冬は血圧が上がりやすく、心臓の負担が増えます)
思い当たることがあるかどうかは、その後の手当てを考えるうえで大きな手がかりになります。「実はお盆に親戚が来て、いつもより食べてしまって」といったお話も、診察のときに遠慮なく教えてください。責めるために伺うのではなく、次に同じことが起きないようにするために伺っています。
家でできる見守り
体重を、同じ条件で記録する
朝起きてトイレをすませたあと、同じような服装で——条件をそろえてはかった体重を、日付とともに書き留めておいてください。毎日が理想ですが、難しければ数日おきでも構いません。心不全の記録用の手帳もありますが、カレンダーの端に数字を書き込むだけでも十分役に立ちます。診察のときにその記録を見せていただけると、薬の効き具合や水のたまり方が一目で分かり、次の一手を考えるうえで大きな助けになります。
塩分は、無理のない範囲でひかえる
塩分をとると、体は水分を抱え込みやすくなります。心不全で減塩がすすめられるのはこのためです。とはいえ、味気ない食事は食欲そのものを落としてしまいます。だしや酸味、香りのある薬味を使う、汁物は具を中心にしてつゆを残す、しょうゆを「かける」から「つける」に変える——このあたりから始めるのが現実的だと思います。どのくらいひかえるとよいかは、腎臓の状態や、その方の食べる力によっても変わります。食が細ってきている方に厳しい減塩を課すと、かえって体力を落としてしまうこともありますので、診察のときに一緒に決めていきましょう。
薬は自己判断でやめない
利尿薬や心臓・血圧の薬を、「調子がいいから」「トイレが近くて外出しづらいから」という理由でやめてしまうと、それ自体が悪化のきっかけになります。困りごとがあるときは、やめる前にご相談ください。飲む時間を朝にずらす、種類や量を見直すなど、暮らしに合わせた調整ができることがあります。飲み忘れが続いてしまう場合も、一包化やお薬カレンダーなど、打てる手はいくつもあります。
感染を防ぐ、急な寒暖差を避ける
かぜやインフルエンザ、肺炎は、心臓にとって大きな負担になります。手洗いやうがい、予防接種、部屋の湿度を保つこと。基本的なことばかりですが、心不全の方にとってはとくに意味を持ちます。札幌の冬であれば、暖かい居間から寒い脱衣所やトイレへ移動するときの寒暖差にも気を配っていただきたいところです。
動かなすぎない
息切れがこわくてまったく動かなくなると、筋力が落ち、かえって少しの動作で息が上がるようになります。心臓をいたわることと、じっとしていることは同じではありません。どのくらい動いてよいかは心臓の状態によって変わりますので、リハビリや日中の過ごし方については、診察のうえで一緒に考えていきます。
すぐに相談してほしいサイン
次のような変化があるときは、次の訪問を待たずにご連絡ください。
- 安静にしていても息が苦しい、横になれない
- 夜中に息苦しくて目が覚めることが続く
- 二、三日で体重が2kg以上増えた
- むくみが急に強くなった、太ももやお腹のあたりまで及んできた
- 胸が締めつけられるように痛い
- 動悸が続く、脈が速い・大きく乱れている
- 冷や汗をかいている、意識がぼんやりしている
- ピンク色の泡のような痰が出る
とくに、冷や汗をともなう強い息苦しさや胸の痛みは、ためらわずに救急要請をしてください。夜間や休日にどう判断するか迷われたときの考え方は、救急車を呼ぶ目安についての記事にもまとめています。当院で診させていただいている方は、急変時の連絡先へご遠慮なくお電話ください。
訪問診療では、何をしているか
定期的に伺っている方であれば、診察のたびに、胸と背中の音、脈の速さと乱れ、血圧、足のむくみ、体重の変化、そして日ごろどのくらいの動作で息が上がるのかを確認しています。ご家族がつけてくださった体重の記録は、そのときいちばん頼りになる資料です。
必要に応じて在宅で採血を行い、腎臓の働きや貧血の有無、心臓への負担を示す数値などを見ながら、利尿薬をはじめとするお薬の量を調整していくこともあります。訪問看護が入っている方であれば、「体重が何kgを超えたら連絡する」といった約束事をあらかじめ関係者で決めておくと、悪化の兆しをより早くつかまえられます。
入院して治療したほうがよい状態なのか、家で調整しながら見ていける範囲なのか——その判断も、そのつど診察のうえで行います。ご本人が「できるだけ入院はしたくない」とお考えであれば、その希望を軸にしながら、病院の主治医とも相談して方針を組み立てていきます。
心不全は、付き合っていく病気
心不全は、すっかり元どおりになるというより、うまく付き合いながら暮らしていく病気です。悪くなりかけたところで小さく手を打てれば、入院せずに家で乗り切れることも少なくありません。そのために私たちがいちばん頼りにしているのは、毎日そばで見ているご家族やヘルパーの方の「なんだかいつもと違う」という感覚です。体重が増えてきた、この前より息が上がるようになった——そんな変化に気づかれたら、どうぞ早めにお知らせください。札幌市内を中心に訪問診療を行う当院として、暮らしの中の小さな変化にこれからも目を配っていきたいと思います。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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