高血圧を放置するとどうなる?——高齢者の夏の血圧と、家での測り方
「血圧はいかがですか」と伺うと、ほとんどの方が「大丈夫です、なんともないので」とお答えになります。実際そのとおりで、血圧が高いからといって頭が痛くなるわけでも、胸が苦しくなるわけでもありません。困ったことがないから、机の上の血圧手帳は先月のページで止まったまま——訪問先でよく見る光景です。
当院が定期的に伺っている方の多くが、高血圧のお薬を飲んでいらっしゃいます。長く付き合う病気なので、正直なところ「今さら聞きにくい」と思われている方も多いのではないでしょうか。八月に入った札幌はここからがいちばん暑い時期ですし、夏は夏で血圧の動きが変わります。今日は、放置するとどうなるのか、そして家での測り方をどう整えるかを、あらためて書いてみます。
高血圧は、症状が出ないまま進みます
血圧が高いというのは、血液が流れるときに血管の壁を押す力が強い状態のことです。押される側の血管は、その力に耐えようとして少しずつ厚く、硬くなっていきます。ゴムホースを高い水圧で使い続けると、しなやかさが失われていくのに少し似ています。
やっかいなのは、この変化に痛みが伴わないことです。体はよくできていて、少しずつの負担には静かに慣れてしまいます。だから「症状がない=血圧は落ち着いている」ではありません。数字だけが、その人の血管が受けている負担を教えてくれます。
ちなみに、血圧の目安としてよく挙げられるのは、ご家庭で測って135/85以上、診察室で140/90以上という数字です。ただしこれは「高血圧かどうか」の線引きであって、どこまで下げるのが良いかは年齢や持病、ふらつきの有無によって一人ひとり違います。ご高齢の方では下げすぎない設定にすることもありますので、目標の数字は主治医とすり合わせておいてください。
放置が続くと、どこに負担がかかるのか
高血圧そのものが痛みを起こすことはまずありませんが、長く続くと体のあちこちで動脈硬化が進み、次のような病気が起こりやすくなることが知られています。
- 脳:脳梗塞・脳出血。片側の手足が動かない、ろれつが回らない、顔がゆがむ、といった形で突然あらわれます
- 心臓:狭心症・心筋梗塞、そして心不全。息切れやむくみ、急な体重増加が入口になることがあります
- 腎臓:はたらきが少しずつ落ち、むくみやだるさ、貧血として現れてきます
- 目:眼底の細い血管が傷み、見えにくさにつながることがあります
どれも「ある日いきなり」起きたように見えて、実際には何年もかけて準備されてきた出来事です。逆に言えば、血圧を整えておくことは、その準備をゆっくりにする作業だと考えていただければと思います。
夏は血圧が下がりやすい——「効きすぎ」に気をつけたい時期です
ここまで「下げましょう」という話を続けてきましたが、この時期に私たちが実際に気にしているのは、むしろ逆の方向です。暑くなると体は熱を逃がすために血管をひらき、汗で体の水分も減ります。その結果、同じお薬を同じ量だけ飲んでいても、冬より血圧が下がりやすくなります。
下がること自体は悪いことではありません。ただ、ご高齢の方の場合、下がりすぎると立ち上がったときのふらつきや、食後のだるさ、ひどいときには転倒につながります。夏場に「なんだか元気がない」「歩くのがおぼつかない」という相談をいただいて、測りなおしてみると血圧がかなり低かった、ということがあります。汗をかいて水分が足りていない状態や、熱中症が重なっていることも少なくありません。
ここで大切なのは、ご自身やご家族の判断でお薬を減らしたり止めたりしないことです。血圧のお薬は急にやめると反動で上がることがあり、かえって危ない場面があります。「暑くなってから低めが続いている」と気づいたら、その手帳の数字ごとご相談ください。減らすにしても、どの薬をどれだけ、というのは飲み合わせを見ながら決める必要があります。
家庭血圧は、測り方で数字が変わります
訪問時に測る一回きりの血圧は、その日その瞬間のものでしかありません。私たちが本当に見たいのは、ふだんの暮らしの中での血圧です。とはいえ、測り方がばらばらだと数字も揺れてしまうので、次の点をそろえていただけると助かります。
- 朝と晩、一日二回。朝は起きて一時間以内・トイレを済ませてから・薬を飲む前、晩は寝る前が目安です
- いすに座って一〜二分ほど休んでから。背もたれに寄りかかり、足は組まずに床につけて
- いつも同じ腕で。カフは心臓と同じ高さに、素肌か薄手のもの一枚の上から
- 測っている間はしゃべらない(会話をすると数字が上がります)
- 高い値が出ても、慌てて何度も測り直さない。落ち着いてもう一度で十分です
そして記録です。手帳でも、カレンダーの隅でも、スマートフォンのメモでも構いません。一回の高い数字より、一週間・一か月の平均のほうが、はるかに多くのことを教えてくれます。「先週から朝だけ高い」「暑くなってから晩が低い」——こういう傾向が見えると、お薬の調整はぐっと的確になります。ご家族やヘルパーの方が代わりに書きとめてくださっているご家庭も多く、私たちはその一冊をとても頼りにしています。
こんなときは、早めにご連絡ください
まず、迷わず救急要請をしていただきたい場面から。激しい頭痛と吐き気、片側の手足が動かない、ろれつが回らない、強い胸の痛みや圧迫感、冷や汗、呼びかけへの反応が鈍い——このようなときは、血圧の数字を確かめるより先に119番へお願いします。夜間の判断に迷ったときの考え方はこちらの日記にまとめています。
そこまでではないけれど早めにご相談いただきたいのは、次のようなときです。
- 上の血圧が連日180以上、または下の血圧が連日110以上のとき
- 反対に、上の血圧が100を下回る日が続く、立ち上がるとふらつく
- 数日で体重が一〜二キロ増えた、足のむくみが強くなった、息切れが増えた
- お薬を飲み忘れた日が続いている、飲めているか分からない
最後のひとつは、遠慮なく教えていただきたいところです。飲めていない前提で薬を増やしてしまうのがいちばん危ないので、正直に伝えていただけるほうが安全に調整できます。
訪問診療でできること
定期的に伺っている方であれば、診察のたびに血圧の記録を一緒に見て、その季節の体調に合わせてお薬の量や種類を見直します。夏のあいだは、下げすぎていないかという視点が中心になります。腎臓のはたらきや電解質の状態を確かめたほうがよいと判断すれば、ご自宅で採血もできます(訪問診療でできる検査にまとめました)。
訪問看護が入っている方なら、看護師が訪問のたびに血圧を測って記録を残し、その内容が私たちにも届きます。ふらつきが増えていないか、むくみが出ていないかといった「数字以外の情報」が同時に入ってくるのは、在宅ならではの強みだと感じています。
お薬が多くて管理が大変という場合には、一包化や飲む回数の整理といった相談もできます。血圧の薬に限らず、「この量で今の体に合っているのか」を定期的に見直すこと自体が、在宅医療の大事な仕事のひとつだと思っています。
短い夏のうちに、一度見直しておく
札幌の夏は本当に短くて、九月に入ればもう朝晩は涼しくなります。そして寒くなれば、今度は血圧が上がりやすい季節がやってきます。夏のあいだに合わせた量が、そのまま冬に持ち越されて高いまま——というのは、実は毎年のように起こることです。
だからこの時期、血圧手帳を開いてみていただきたいのです。空欄が続いていても構いません。今日から朝と晩、二回ずつ書き足していけば、二週間もすればその人らしい傾向が見えてきます。そこから先は私たちの仕事です。
「血圧の薬、今のままでいいのかな」という程度のことでも、遠慮なく声をかけてください。札幌市中央区を中心に訪問診療を行う当院として、症状として現れないものにこそ、こちらから目を向けていきたいと思っています。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲