夏バテで食欲が落ちる高齢者へ——札幌の在宅医が伝える夏の体調管理のポイント

お盆が近づくこの時期、訪問先で「このごろ、あまり食べなくて」というお声をよく伺います。冷たい麺なら少し、白いご飯はもう半分も残す。冷房を控えめにした部屋で、ご本人はいつもどおり座っているのに、なんとなく口数が少ない。北国の夏は短いぶん、体が暑さに慣れる前に本番を迎えてしまうので、高齢の方ほどこの「なんとなくの不調」——いわゆる夏バテを起こしやすくなります。

今日は、ご家族やケアマネージャーの皆様に向けて、夏バテとは体の中で何が起きている状態なのか、そして家でできる体調管理のポイントを整理してみます。難しい対策ではなく、今日から少しずつ始められることを中心にお伝えします。

夏バテとは、体の「調節する力」が追いつかない状態

夏バテという言葉は病名ではありませんが、暑さのなかで自律神経のはたらきが乱れ、食欲・睡眠・体力がまとめて落ちていく状態を指しています。汗をかいて水分と塩分が失われ、冷たいものばかりで胃腸が弱り、寝苦しさで眠りが浅くなる。ひとつずつは小さなことでも、重なると「食べられない・眠れない・動けない」の悪循環に入っていきます。

やっかいなのは、この状態が高齢の方では静かに進むことです。若い人のように「バテた」と自覚して休むより先に、食事量がじわじわ減り、体力が落ち、気づいたときには脱水の一歩手前ということも少なくありません。だから私たちは、夏場の訪問では体重の動きと食事の量を、ふだん以上に丁寧に伺うようにしています。

高齢の方が夏に弱りやすい理由

年齢を重ねると、体は暑さに対して静かになります。のどの渇きを感じにくく、汗をかく力も落ち、体内の水分量そのものが若い頃より少ない。そこへ持病やお薬、「電気代がもったいない」という遠慮が重なって、本人も周りも気づかないうちに消耗が進みます。

さらに夏は、そうめんやおかゆなど口当たりのよいものに偏りがちです。さっぱりして食べやすい反面、たんぱく質やおかずが減ると、体力を保つ材料が足りなくなります。「食べているつもりなのに元気が出ない」の背景には、こうした栄養の偏りが隠れていることがあります。

家でできる、夏の体調管理5つのポイント

特別な道具は要りません。ご家庭で今日から意識していただけることを、5つに整理しました。

  • 水分と塩分はセットで、こまめに。「のどが渇いた」と思う前に、コップ半分ずつを時間で区切って。汗を多くかいた日や食事が細い日は、経口補水液や味噌汁・スープからの塩分も助けになります。
  • 室温と湿度を数字で管理する。目安は室温28度・湿度60パーセント前後。冷房は我慢するものではなく、体を守る道具です。温湿度計をひとつ、目につく場所に置いておくと判断がぶれません。
  • 食欲が落ちたら、量より中身と回数で。冷奴や卵、香味野菜を効かせた冷製メニューなど、少量でも栄養がとれる一品を。1日3食にこだわらず、少しずつ回数を分ける食べ方でも構いません。
  • 眠りの環境を整える。寝苦しい夜は睡眠が浅くなり、日中のだるさにつながります。就寝前後もエアコンや扇風機で室温を整え、朝は決まった時間に光を入れて生活リズムを保ちましょう。
  • 毎日ひと目、体調を見る。「なんとなく元気がない」「返事が遅い」「尿の色が濃い」——こうした小さな変化に気づけるのは、いちばん近くにいるご家族です。声かけの回数をあらかじめ決めておくと続きます。

ただし、心不全や腎臓の病気で水分・塩分の制限を受けている方は話が別です。よかれと思った補給がかえって負担になることがあるので、その場合は必ず主治医に量の目安をご確認ください。

「食べられない」が続くときは、我慢の前にひと相談を

数日、冷たいものが少し口に入る程度なら、無理に食べさせようと気負わなくても大丈夫なことが多いです。けれど、水分もほとんど摂れない、日ごとに食事量が減っていく、立ち上がるとふらつく——こうした状態が続くときは、夏バテの範囲を超えて脱水や別の不調が隠れていることがあります。

当院が定期的に伺っている方であれば、夏場は診察のたびに水分と食事の量、体重の動き、お薬の内容を一緒に見直します。必要と判断すれば採血で脱水や電解質の状態を確かめますし、飲めない状態が続いていればご自宅や施設での点滴という選択肢もあります。食欲そのものの落ち込みについては、高齢の方が急に食べなくなったときの考え方もあわせてご覧ください。

熱中症のサインは、別に覚えておいてください

夏バテと熱中症は地続きですが、注意の仕方が少し違います。だるさや食欲の落ち込みが「夏バテ」だとすれば、体温を調節するしくみが追いつかなくなった状態が「熱中症」です。意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い、まっすぐ座っていられない、水を飲ませてもむせて飲めない——このような状態は、夏バテの延長と考えず救急要請を迷わないでください。

高齢の方の熱中症は、炎天下ではなく自宅の室内で静かに起きることが多いという特徴があります。その見分け方は室内で起きる熱中症についての記事に、救急車を呼ぶかどうかの判断は夜間の発熱・呼吸苦の判断目安にまとめています。

札幌の夏は短い。だからこそ、無理をためこまないで

お盆を過ぎれば、この街の風はもう秋の匂いを混ぜはじめます。暑いのはほんの数週間だと分かっているから、みんな我慢してしまう。その数週間で食欲と体力を落とし、そのまま戻らないまま秋を迎える方がいらっしゃるのが、正直なところ気がかりです。

ご家族には「しっかり食べさせなきゃ」と気負わず、まずは今日の部屋の温度を測ってみる、冷たい一品に卵や豆腐を足してみる、コップを手の届くところに置いておく——それくらいから始めていただければ十分です。そして少しでも様子がおかしいと感じたら、遠慮なくご連絡ください。札幌市中央区を中心に訪問診療を行う当院として、夏のあいだの小さな変化こそ拾っていきたいと思っています。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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