自宅で看取ったあと、まず何をする?——救急車を呼ばない理由と死亡診断書

「息をしていないみたいなんです。救急車を呼んだほうがいいですか」。夜明け前の電話で、そう尋ねられることがあります。ご家族の声は、たいてい少し震えています。何か月も前から「最期は家で」と話し合ってきた方でも、その瞬間が来ると頭が真っ白になる。それはごく自然なことだと思います。

在宅での看取りは、そこへ向かう準備の話はよく語られるのに、「そのあと何をするのか」を先に教えてもらえる機会が意外と少ないものです。今日はこの日記で、ご家族が実際にたどることになる流れを、順を追ってお話しします。読んでいて気持ちのざわつく話題かもしれません。それでも、知っておくと当日の心の余裕がまるで違いますので、落ち着いているときに目を通しておいていただけたらと思います。

まず、あわてなくて大丈夫です

在宅での看取りという方針をかかりつけ医と共有できている場合、呼吸が止まったからといって、その瞬間に何かを急いでしなければならないということはありません。数分、あるいは十数分、そばに座っていていただいてかまいません。手を握る、名前を呼ぶ、離れて暮らすご家族に来てもらう。その時間は決して無駄になりません。

そのうえで、落ち着いたところで当院、あるいは訪問看護ステーションへお電話ください。当院は急変時に24時間の連絡体制をとっていますので、夜中でも明け方でも遠慮は要りません。「たぶん、息をしていないと思います」で十分です。そこから先は、こちらが順番をご案内します。

できれば、様子が変わったことに気づいたおおよその時刻を覚えておいてください。時計を見ていなくても「たしか5時ごろだったと思います」で構いません。あとで書類を整えるときの手がかりになります。

なぜ救急車を呼ばないのか

ここがいちばん誤解の多いところなので、少していねいにお話しします。

救急隊は、命を救うために駆けつける人たちです。心臓が止まっている方の前に立てば、原則として心臓マッサージを始め、病院へ搬送します。それが救急というしくみの役割であり、そうあるべきものです。ですから、家で穏やかに最期を迎えることをご本人とご家族が選び、その方針を医療者と共有してきたのに救急要請をしてしまうと、望んでいなかった蘇生処置が始まり、病院の処置室で見送ることになりかねません。「家で」と決めてきた長い時間が、最後の30分でひっくり返ってしまう——それは避けたいのです。

ただし、これは「在宅での看取りという方針が決まっている場合」の話です。方針をまだ話し合えていない、急に容体が変わって何が起きているのか分からない、苦しそうにしていて見ていられない——そんなときは、迷わず119番してください。「呼んではいけない」というルールがあるわけではありません。判断に迷うときの相談先として、在宅の主治医がいることを思い出していただければ十分です。看取りに向けた準備と当日そのものについては、在宅での看取りの記事にまとめてあります。

「警察が来るのでは」という心配について

「家で亡くなると、警察が来て事情を聞かれると聞きました」。この不安をお持ちの方は本当に多くいらっしゃいます。結論をお伝えすると、かかりつけの医師が定期的に診察を続けていて、その診てきた病気の経過による死亡だと判断できる場合には、医師が死亡診断書を作成しますので、警察の方が入る流れにはなりません。

警察への届け出が必要になるのは、事故や転落、けが、中毒など、病気の経過とは違う原因が関わっている疑いがある場合や、医療にまったくかかっていなかった方が亡くなって死因が分からない場合です。このときは医師が死亡診断書ではなく検案という手続きをとることになり、状況によっては警察が関わります。裏を返せば、日ごろから訪問診療で経過を診せていただいていること自体が、そうならないための備えになっているわけです。

ときどき起きてしまうのが、亡くなったあとで慌てて救急要請をしてしまい、そのために死因の確認が改めて必要になる、という展開です。これも、連絡先をあらかじめ決めておけば防げることです。

「最期の24時間に診察していないと診断書は書けない」は誤解です

もう一つ、根強い誤解があります。「亡くなる24時間以内に医師の診察を受けていないと、死亡診断書を書いてもらえない」というものです。これは正確ではありません。

法律が定めているのは、最後の診察から24時間以内に亡くなった場合には、医師が改めて診察をしなくても死亡診断書を交付してよい、という手続き上の決まりです。24時間を過ぎたら書けない、という意味ではありません。24時間以上あいていても、医師が改めて診察をしたうえで、これまで診てきた病気の経過による死亡だと判断できれば、死亡診断書を交付できます。国からもその旨がはっきり示されています。

ですから、「最後に先生に診てもらったのが先週だから、もう間に合わないのでは」と焦る必要はありません。訪問診療が月に1回や2回の方であっても、同じことです。落ち着いてご連絡ください。

医師が到着するまでのあいだに

ご連絡をいただいてから伺うまでには、少しお時間をいただきます。そのあいだにしていただきたいことは、実はあまり多くありません。

  • 部屋を暖めすぎないようにする(夏場は冷房を入れておくと安心です)
  • 様子が変わったことに気づいたおおよその時刻を、紙に書き留めておく
  • 来ていただきたいご家族へ連絡する
  • お薬や医療機器はそのままにしておく(片づけはあとで大丈夫です)

お体を拭いてさしあげたい、着替えをさせてあげたい——そういうお気持ちになるかもしれません。それはとても大切な時間ですが、医師の確認が済んでからのほうが落ち着いて行えます。訪問看護が入っている方は、看護師と一緒に身支度を整えることもできますので、ご家族お一人で背負わなくていいということを、どうか覚えておいてください。

それから、これは手順の話ではありませんが——泣いていていいのです。人を呼んでいいのです。医師が伺ったときに家の中が片づいていなくても、誰も気にしません。

死亡診断書を受け取ったあと

医師が死亡を確認し、死亡診断書をお渡しします。この用紙は、右半分が医師の書く死亡診断書、左半分がご家族の書く死亡届という、一枚でひと組のつくりになっています。

死亡届は、亡くなったことを知った日から7日以内に市区町村の窓口へ提出します。札幌市であれば、お住まいの区の窓口です。届け出をすると火葬に必要な許可証が出ますので、これがないと葬儀へ進めません。とはいえ、実際にはこの届け出を葬儀社が代行してくれることがほとんどですので、ご家族が役所へ走らなければならない場面はあまり多くありません。

一つだけ、覚えておいていただきたいことがあります。死亡診断書は、そのあとの手続き——年金、保険、金融機関の名義——でくり返し必要になります。役所へ提出する前に、コピーを何枚か取っておかれると、後々ずいぶん楽です。これは「知らなかった」とおっしゃる方の多いところです。

介護保険のサービスや、貸し出しを受けている医療機器・福祉用具があれば、その連絡も必要になります。ここもご家族だけで抱える必要はなく、ケアマネージャーの皆様が事業所との段取りを整えてくださることが多いところです。

元気なうちに、決めておけること

当日をいちばん楽にしてくれるのは、実は前もっての小さな決めごとです。

夜中に誰へ電話するのか。その番号はどこに貼ってあるのか。葬儀社をどこにお願いするのか。そしてご本人は、どこでどんなふうに最期を迎えたいと言っていたのか。この4つが決まっているだけで、当日の慌ただしさはずいぶん違います。冷蔵庫の扉に連絡先を貼っておくご家庭は多く、私たちも訪問先でそれを見せていただくと安心します。

もう少し手前の段階、「どこまでの医療を望むか」「決められなくなったとき誰に決めてもらいたいか」をご家族で話しておくことについては、人生会議(ACP)の記事にまとめました。重い話に思えるかもしれませんが、話しておいたご家庭ほど、最後の日々を穏やかに過ごしておられるように感じています。

見送ったあとのご家族へ

看取りが終わると、それまで張りつめていたものが一気にほどけます。「あのとき、もっと何かできたのではないか」と考えてしまう方は少なくありません。長く介護をされてきた方ほど、ぽっかりと空いた時間に戸惑われます。

その問いに、私たちがすっきりした答えを差し上げられるとは限りません。それでも、当日そばで何が起きていたのかを一緒に振り返ることはできます。当院で診させていただいた方のご家族であれば、しばらく経ってからでも構いませんので、気にかかることがあれば声をかけてください。

札幌市内を中心に訪問診療を行う当院として願うのは、その日が来たときに、ご家族が手順のことで頭をいっぱいにせずに済むことです。何をするかを先に知っておけば、あとはただ、そばにいる時間に集中していただけます。それが、家で見送るという選択のいちばん大きな意味だと思っています。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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