高齢者の入浴が難しくなったら——お風呂に入れない理由と在宅でできること
在宅で療養されている方のご様子を伺っていると、入浴の頻度が少しずつ下がっていることに気づく場面があります。ご本人にとってもご家族にとっても、あまり人には話しにくい話題だと思います。ですが、加齢や病気の影響で足腰が弱ると、お風呂は思っている以上に「大仕事」になっていきます。何ヶ月も、時には何年も湯船に浸かれていない、という状態も、実は珍しいことではありません。
今日は、高齢の方の入浴が難しくなる理由と、入れない時間が続くと体に何が起きるか、そして在宅でどんな選択肢があるかについて書いてみます。
高齢になると、お風呂が「大仕事」になっていく
お風呂に入れなくなる理由は、ひとつではありません。いくつかが重なっていることがほとんどです。
- 転倒への不安。浴室は濡れて滑りやすく、またぐ・しゃがむといった動作も必要です。以前ヒヤリとした経験があると、それだけで足が向かなくなります
- 準備と後片付けの負担。お湯を張る、体を洗う、髪を乾かす——一連の動作を一人でこなすのは、思っている以上に体力を使います
- 寒さ。脱衣所と浴室の温度差は、体調が不安定な方にはそれだけで負担になります
- 羞恥心や介助への抵抗。誰かに体を見られる、洗ってもらうということに、抵抗を感じる方は少なくありません
- 「どうせまた汚れるから」というあきらめ。気力や意欲が落ちているときほど、後回しにされやすいのが入浴です
どれも、本人の「だらしなさ」や「怠け」の話ではありません。体力・環境・気持ちの、それぞれに理由があります。
入浴できない状態が続くと、体に何が起きるか
入浴は、単に「清潔にする」だけの行為ではありません。間隔が空くと、体にはいくつかの変化が起こりやすくなります。
- 皮膚トラブル。古い角質や汗、皮脂が蓄積し、皮膚が荒れやすくなります。かゆみや湿疹、白癬(水虫)などの真菌感染も起こりやすくなります
- 蒸れやすい部位のトラブル。陰部や指の間、皮膚のしわの間などは蒸れやすく、感染や褥瘡のリスクにつながることがあります
- 気持ちへの影響。自分の匂いや見た目が気になり、人との接触を避けるようになる方もいます。気分の落ち込みにつながることもあります
皮膚のトラブルは、放っておくと治療が長引きやすい領域でもあります。この点については褥瘡や皮膚トラブルについての記事でも触れていますので、気になる方はあわせてご覧ください。
「入れていない」を責めずに、理由から一緒に考える
ご家族としては「なぜ入らないの」と問い詰めたくなる気持ちもよく分かります。ただ、入浴が難しくなっている方の多くは、入りたくないのではなく、入る方法が見つからないまま時間が経ってしまっただけ、ということが少なくありません。
大切なのは、入れていないこと自体を責めるのではなく、「なぜ入れなくなったのか」を一つずつ確認することだと思います。転倒が怖いのか、寒さがつらいのか、介助してくれる人がいないのか。理由が分かれば、対応の仕方も見えてきます。
在宅での入浴支援の選択肢
自宅での入浴が難しくなった場合、いくつかの選択肢があります。いずれも介護保険を使ったサービスで、ケアマネージャーを通じて手配していくのが基本です。
- 訪問入浴サービス。専用の浴槽を積んだ車で自宅を訪問し、スタッフが入浴を介助してくれるサービスです。寝たきりに近い状態の方でも利用できる場合があります
- デイサービスでの入浴。通所先の設備で入浴支援を受けられます。外出や他者との交流も兼ねられる点が特徴です
- 訪問看護による清拭・部分浴。入浴そのものが難しい状態のときでも、体を拭く・部分的にお湯で洗う、といったケアで清潔を保つ方法があります
- 住宅改修や福祉用具。手すりの設置やシャワーチェア、浴槽の踏み台などを取り入れることで、一人での入浴が続けられるようになる方もいます
どれが向いているかは、体の状態や住まいの環境によって変わります。この領域は制度が細かく、要介護度によって使えるサービスも異なるため、「うちの場合はどれが使えるか」は担当のケアマネージャーや地域包括支援センターに相談するのが確実です。私たち医療機関よりも、そちらのほうが実際の手配まで詳しく一緒に考えてくれます。
訪問診療にできること
入浴の介助そのものは、訪問診療の役割ではありません。それは訪問入浴やデイサービス、訪問看護といった介護・看護のサービスが担う領域です。訪問診療の医師としてお手伝いできるのは、次のような部分になります。
- 診察の際に皮膚の状態を確認し、湿疹や白癬、褥瘡の兆候がないかを見ること
- 皮膚トラブルが見つかった場合に、診察・処方を行うこと
- 清拭や部分浴が必要な状態であれば、訪問看護と連携して方針を相談すること
- ケアマネージャーと情報を共有し、入浴支援の導入について相談に乗ること
「入浴のことは介護保険のサービス、体に起きている変化は医療」という役割分担を意識しながら、必要なところで手をつなぐ。それが、私たちにできる関わり方だと思っています。
まずは、担当のケアマネージャーへの相談から
「もう何年もお風呂に入れていない」ということに気づいたら、まずは担当のケアマネージャーに相談していただくのが近道です。要介護認定を受けていない場合は、お住まいの地域包括支援センターが窓口になります。どのサービスが使えるか、費用はどのくらいかといった具体的な話は、そちらで詳しく確認できます。
訪問診療をご利用中の方であれば、診察の際に「入浴が難しくなってきた」とお伝えいただければ、皮膚の状態を確認しながら、必要に応じてケアマネージャーや訪問看護と情報を共有します。清潔を保つことは、心と体の健康を支える土台のひとつです。札幌市内を中心に訪問診療を行う当院でも、そうした暮らしの困りごとのご相談をお受けしています。
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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