在宅医療のよくある誤解5つ——「まだ早い」「費用が高い」は本当?

「先生のところにお願いするのは、うちはまだ早いですよね」

お電話でご相談を受けていると、この言葉を月に何度も聞きます。たいていは離れて暮らす娘さんや息子さんから、少し申し訳なさそうに。こちらも「そうですか」と引き下がりそうになるのですが、よくよく伺っていくと、通院のたびにタクシーを呼んで、待合室で一、二時間待って、帰宅した本人は夕方までぐったりしている——そんな暮らしが何年も続いていたりします。

在宅医療という言葉には、どうも重たい響きがあるようです。そして実際にお話ししてみると、多くの方が同じところで引っかかっている。今日は、相談の場でよく出てくる思い込みを五つ、順番にほどいてみます。札幌市中央区を中心に訪問診療をしている当院の考え方として読んでいただければと思います。

誤解① 在宅医療は「最期が近い方」のためのもの

いちばん多い思い込みが、これです。たしかに在宅での看取りは訪問診療の大切な役割のひとつですし、そのイメージが強いのも分かります。

けれど実際にお伺いしている方を思い浮かべると、その多くはそうではありません。心不全や呼吸器の持病、糖尿病のコントロール、認知症、骨折のあとで足腰が弱ってしまった方、退院したばかりで生活の立て直しが必要な方。共通しているのは病気の重さではなく、「外来に通いつづけるのがしんどくなってきた」という一点です。

むしろ早い時期から関わらせていただけるほど、こちらは助かります。普段の血圧や食事量、歩き方を知っていれば、「今日はいつもと違う」に気づけるからです。初めてお会いするのが具合を崩した日だと、どこからが本人にとって異常なのかが分からない。どんな方が対象になるのかは訪問診療の対象になる方・ならない方で具体例を挙げて整理しています。

誤解② 毎日来てもらわないといけない/先生がずっと待機している

「そんなに頻繁に来ていただくほどではないので」と遠慮される方もいらっしゃいます。これも逆方向の誤解で、訪問診療の基本はあらかじめ決めた日に伺う定期訪問と、具合が悪くなったときの往診の組み合わせです。月に一度の方も、二度の方もいらっしゃいます。頻度は病状と暮らしぶりに合わせて決めるものです。

もう一つの「先生が家の前で待機している」というイメージも、少し違います。急変時に24時間ご連絡いただける体制は取っていますが、夜中のお電話がすべて往診になるわけではありません。症状を伺って、朝まで様子を見て大丈夫そうか、今すぐ伺ったほうがよいか、救急要請をお願いしたほうがよいかを一緒に考える。その電話一本があるだけで、ご家族の夜がずいぶん違ってきます。

誤解③ 病院に通うより高くつくのでは

費用の話は、いちばん聞きにくいところだと思います。だからこそ、こちらから先にお伝えするようにしています。

訪問診療は健康保険が使える診療で、窓口でお支払いいただくのはご加入の保険と自己負担割合に応じた額です。特別なお金がかかるわけではありません。金額の目安や内訳は訪問診療の費用の記事に書いていますし、初回のご相談でも見込みをお伝えします。

それに、これまで通院にかかっていた往復のタクシー代、付き添うご家族が仕事を早退していた時間——そこまで並べて眺めると、印象が変わる方もいらっしゃいます。もちろん、ご家庭の事情によって答えは違います。お金の心配があること自体を、遠慮なく相談材料にしてください。

誤解④ 施設に入っているから、訪問診療は使えない

これはケアマネージャーや施設の相談員の皆様からもよくいただく質問です。有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、特別養護老人ホームなど、住まいが施設であっても訪問診療をご利用いただける場合があります。

施設に看護職がいらっしゃる場合は、日々の観察や処置をお願いし、医師は診察とお薬の判断、急な変化への対応を担う——そんなふうに役割を分けます。デイサービスや訪問歯科など、ほかのサービスが入っていても調整は可能です。同じ建物に伺う方が複数いらっしゃると、こちらも往診の段取りをつけやすくなります。

誤解⑤ 今のかかりつけの先生と、縁が切れてしまう

長く診てもらった先生を「裏切る」ように感じてしまう。この気持ちは、私もよく分かります。実際、この遠慮で相談が半年も一年も遅れることがあります。

ですが訪問診療を始めることは、これまでの主治医と縁を切ることではありません。循環器や整形外科、眼科といった専門の外来は続けながら、日々の体調管理とお薬の調整を在宅側で担う——そういう分担の仕方があります。情報共有のご同意をいただいたうえで、診療情報提供書などで先生方とやりとりします。

在宅でできる検査には限りがありますから、詳しい検査や入院が必要と判断すれば、病院へお願いする橋渡しをします。「家に来てもらうと病院に行けなくなる」ということはありません。

五つほどいたあとに残るのは、たいてい「言い出しにくさ」

ここまでの誤解がほどけても、最後にもう一つ残ります。「本人が何と言うか」です。ご本人にしてみれば、家に医者が来るというのは自分の弱りを認めることのように感じられる。「まだ大丈夫」と言うのは、とても自然な反応だと思います。

だから、無理に説得しなくて構いません。ご家族だけで相談していただいてもいいですし、ケアマネージャーがついていらっしゃるならまずその方へ。まだ介護保険を使っていない段階なら、お住まいの地域包括支援センターや当院へ直接お問い合わせいただいても大丈夫です。

それに、ご相談いただいたその日から訪問が始まるわけでもありません。お話を伺い、必要なら面談をして、体制と費用の見込みをご説明してから始まります。

「まだ早い」と思っているうちに聞いておくのが、いちばん落ち着いて選べるタイミングだと感じています。札幌市中央区を中心に伺っている当院として、まだ何も決まっていない段階のご相談こそ、遠慮なくお寄せいただければと思います。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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