生活保護を受けている方の訪問診療——医療扶助のしくみと、相談の進め方

「生活保護を受けている方なんですが、診ていただけますか」。相談員やケアマネージャーの皆様からのお電話で、この一文にさしかかると少し声のトーンが下がる、ということがあります。制度のことで断られた経験を重ねてこられた方ほど、そうなるのだろうと想像しています。

在宅医療とお金の話は、それだけでも分かりにくいものです。そこへ生活保護が重なると、「そもそも訪問診療をお願いしていいのか」という一歩目から迷ってしまう。今日は、生活保護を受けている方の在宅医療がどのしくみでまかなわれるのか、手続きは誰が軸になって動くのか、そして相談はどこから始めればいいのかを整理してみます。

医 療 券 確認

生活保護の医療は「医療扶助」でまかなわれます

生活保護には、日々の生活費にあたる生活扶助や、住まいのための住宅扶助など、目的ごとに分かれた扶助があります。そのうち医療にあたるのが医療扶助です。特徴は、現金が支給されるのではなく、医療そのものが給付されるかたち(現物給付)だという点にあります。

そして訪問診療も、この医療扶助の対象に含まれます。通院が難しくなったので在宅に切り替える、という選択が制度の外に置かれているわけではありません。医療扶助で医療を受ける場合、窓口での自己負担は原則としてかかりません。

ここは、ご本人にもご家族にも意外と届いていないところだと感じています。「お金がないから医療は最低限で」と、ご自身で選択肢を狭めてしまう方がいらっしゃる。制度はまさにそこを支えるために用意されているものです。

手続きの軸になるのは、担当のケースワーカー

医療扶助で医療を受けるときは、お住まいの区の福祉事務所(札幌市では各区の保健福祉部)を通して手続きを行い、医療券という書類が医療機関に回るという流れになります。ご本人が毎回窓口へ足を運ぶイメージを持たれることがありますが、実際には担当のケースワーカーが軸になって動きます。ケアマネージャーや病院の相談員の皆様が間に入ってくださることも多く、ご本人ひとりで制度と向き合う必要はありません。

もうひとつ、知っておいていただきたい決まりがあります。医療扶助で受診できるのは、生活保護法上の指定を受けた医療機関です。保険医療機関であれば自動的に対象になるというわけではなく、医療機関ごとに指定の有無が分かれます。かかりたい医療機関がおおよそ決まったら、指定の扱いを含めて担当のケースワーカーと確認していただくのが確実です。当院にご相談いただく場合も、この点は最初に整理させていただきます。

介護のほうは「介護扶助」で組み合わせます

在宅で暮らしていくには、医療だけでは足りません。訪問看護、ヘルパー、福祉用具、デイサービス——このあたりは介護保険の側の話になり、生活保護を受けている方では介護扶助が関わってきます。

65歳以上で介護保険に加入している方は、まず介護保険が使われ、本来の自己負担にあたる部分が介護扶助でまかなわれます。40歳から64歳で介護保険に加入していない方の場合は、介護扶助のほうで対応することになります。どちらにしても、ケアプランを立てるのはケアマネージャーです。医療と介護のどちらの制度から出るのかを最初に整理しておくと、後の手続きがぐっと軽くなります。医療保険と介護保険の関係そのものについてはこちらの記事でも整理しています。

医療 扶助 介護 扶助 暮らしを支える2つの制度

相談から訪問がはじまるまでの流れ

制度の話が先に立つと身構えてしまいますが、実際の進み方はそれほど複雑ではありません。

  1. ご連絡をいただく。ご本人・ご家族からでも、ケアマネージャー・病院の相談員・地域包括支援センターの皆様からでも構いません
  2. 状況をお聞かせいただく。いまいちばん困っていること、これまでの病気とお薬、生活の様子、関わっている関係機関(担当のケースワーカーを含めて)
  3. 制度の確認。医療扶助での取り扱いと必要な書類を、担当のケースワーカーとすり合わせます
  4. 初回訪問。医師がご自宅に伺って診察し、当面の診療の間隔と、急なときの連絡手順を決めます
  5. 定期訪問へ。病状に応じた間隔で伺い、必要な書類の作成もあわせて対応します

よくいただくご質問

自己負担はどうなりますか

医療扶助が適用される範囲では、原則として自己負担はかかりません。ただし制度の細かい取り扱いは自治体や個別の事情によって変わることがあるので、見通しについては担当のケースワーカーにも確認していただくのが安心です。医療保険で受ける場合の費用の考え方は費用についての記事にまとめています。

一人暮らしで、家族が遠方にいます

単身の方の在宅療養は珍しくありません。大事なのは、連絡先をどこに一本化するか、夜間や休日に具合が悪くなったときに誰がどう動くかを、最初に決めておくことです。ご家族が近くにいないぶん、訪問看護やケアマネージャー、担当のケースワーカーとの連絡線を厚めに引いておきます。

紹介状がありません。いまは別の病院にかかっています

紹介状がなくてもご相談いただけます。これまでの経過が分かる資料があると助かりますが、なければこちらから照会させていただくこともできます。

生活保護であることを、周りに知られたくありません

診療で知り得た情報の取り扱いは、生活保護かどうかにかかわらず同じです。関係機関との情報共有も、必要な範囲とご同意のうえで行います。

当院 ご本人 福祉 事務所

お金のことで、医療をあきらめてほしくない

訪問診療の相談を受けていていちばん残念に思うのは、使える制度があるのに、そこへ届かないまま状態が進んでしまうことです。制度は確かに複雑ですが、その複雑さを引き受けるのは支援する側の仕事です。ご本人が全部を理解してから相談しなければならない、ということはありません。

「制度がどうなるかは分からないけれど、とにかく困っている」。その順番で構いません。札幌市中央区を中心に訪問診療を行う当院としても、まずは状況を伺うところから始めて、制度のほうは担当のケースワーカーと一緒に整えていきたいと思っています。自立支援医療のように、知られていないだけで負担を軽くできる制度もあります。困りごとを言葉にするのは、いつでも早すぎることはありません。

この記事を書いた人
札幌インターナショナルクリニック 院長 吉峰 玲
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